起業家のメンタリングに効く9つのコツ

KSP Article, Interview, Knowledge

KOCHI STARTUP PARKが6月に初開催したメンター人材の育成プログラム「メンターズバー」。

本記事ではイベントに登壇したGOB-IP代表・山口高弘さんのトークを一部再編して記事化しています。メンタリングのコツや具体的なケースでどう対応をすべきかなど、メンターとして起業家を支援している人はもちろん、事業開発に関わる全ての人へヒントが詰まった内容です。

登壇スピーカー
山口 高弘(やまぐち・たかひろ) / GOB Incubation Partners 代表取締役
元プロスポーツ選手、19歳で不動産会社を起業、3年後に事業を売却。直後に旅行事業を立ち上げ2年後に売却と、連続的に事業を創造。前職の野村総合研究所ではビジネス・イノベーション室長として主にイノベーション創出をテーマに新規事業開発支援を展開。主に0→1および1→10フェーズでのインキュベーション実績が豊富。アパレルメーカーの新ブランド開発(同種カテゴリーで過去最高の売上を記録)、国内最大級情報メディアプラットフォー ム戦略アドバイザー、売上約100億円インターネットベンチャー 経営者への事業スーパーバイズなど

メンターの役割

私は元々、起業家出身で、2社の事業売却後は投資家をしていました。現在はインキュベーションファームを立ち上げ、起業家、事業の育成を行っています。今回は、起業家を育成してきたインキュベーターの立場からお話しをします。

メンターの役割は「事業を育てる」「本人を育てる」「チームを育てる」「環境を育む」の大きく4つに分類できます。

事業や本人を育てることはもちろんですが、チーム全体を強化しなければ事業が進まない場合もあります。メンターには、対面している事業や起業家を通してチーム全体を見ることが求められるのです。


*本記事では、4つのうちの「事業を育てる」に焦点を当ててまとめます。


▼目次

  1. 事業を前に進める“コツを教える”
  2. プロセスの解像度を上げ、事業創造の道筋を示す
  3. 一緒に手足を動かす
  4. Factを噛み砕き、解釈を渡す
  5. 状態をメタ認知する
  6. 課題を再定義する
  7. 認識を適正化する
  8. 判断軸を育てる
  9. ネットワークを使って、メンターだけでは与えられない新たな成長を促す

エッセンス1
事業を前に進める“コツを教える”

 

わかってからやる、ではなくまずやってみてそこから学ぶことが大切なので、出来るだけ早く起業家に行動させてあげるべきだと思っています。アイデアを1ヶ月練っている暇があったら、1日で考えたアイデアをすぐ試してみる。

そうやって行動を起こせば、何らかの壁に当たります。その時に「これってこうやって登ったらええんちゃうかな」っていくつか選択肢を提供して、あとは自分で決定してもらう。 起業家は「行動して、壁に当たる」の繰り返しで、階段状にしか成長しない のです。

選択肢を描けない人に描けと言っても難しいので、選択肢まではメンターから示してあげる必要があると思います。一方で、最終的には本人が納得感を持てることも大切ですから、決断を任せることも必要になります。

メンターの役割は、壁(課題)に当てるために行動を促すこと、選択肢を提示すること、自分で決定をさせてあげることです。

 

エッセンス2
プロセスの解像度を上げ、事業創造の道筋を示す

 

動きが止まってしまっているスタートアップの多くは、重すぎて動かない石をどうにか押そうとしている状態です。このままではいつまでたっても先へ進むことはできません。こんな時どうするか? 重くて動かないのであれば、石を砕き、1個の重さを軽くすればいいわけですね。

これがプロセスの解像度を上げるということ。 難題に見えても、その解像度を上げて細かなプロセスに分解すれば、1つ1つは簡単に実行できてしまう ものです。

 

エッセンス3
一緒に手足を動かす

 

新たなチャレンジをしている起業家にとって、目の前のことは経験のないことだらけです。

例えば「チラシ配りをしましょう」と起業家に提案する。メンターはただ配ればいいだけと考えがちですが、「否定される、恥をかくのが怖い」と感じて実行に移せないこともあるでしょう。

そんな時は メンター自身も一緒に手を動かして「チラシ配りってこうやるんだよ」と見せてあげる。 そうしたら「なるほど30人連続で無視されても普通なんだ」と分かります。「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、褒めてやらねば人は動かじ」ですね。

 

エッセンス4
Factを噛み砕き、解釈を渡す

 

 起業家が抱える悩みの大半は、「今起きている状況を正確に見立てられないこと」に原因があります。 状況を掴めていないから、問題の原因がわからなくて悩んでしまうのです。だからそんな時には、本人が直面している現在の状況を正しく見立てるお手伝いをしてあげる必要があります。

実際よくある話で、「ユーザーのニーズを捉えきれてない」と悩んでいる起業家がいる。だけど実は、これは永遠に解けない悩みです。なぜなら「自分はこうしてあげたい」と「相手(ユーザー)はこうして欲しい」の間にあるのがニーズだからです。「ユーザーのニーズを捉える必要がある」と考えている時点で、ユーザーにばかり目が向き過ぎていて、自分の心で感じたものをそこに重ねるという視点が抜け落ちてしまっているのです。

こんな時には、悩みの論点を変える必要があります。

 

エッセンス5
状態をメタ認知する

 

高速道路を走行していると、スピードが速すぎて「今何キロ地点を走っているか」「パーキングエリアがどこにあるのか」分からなくなりますよね。起業家も同じです。めまぐるしく変わる毎日の中で視野が狭まってしまいがちなのです。

そんな時には、 メンターが状態を俯瞰的に判断し、今どの位置にいて何をすべきなのかを伝えてあげないといけません。 

本来はビジネスの価値を検証すべき段階なのに、「なんか利益が出ない気がするんです」と言われたら、「利益を出すのはだいぶ後のこと。まずはユーザーにヒアリングをしよう」と今すべきことを説明しましょう。

 

エッセンス6
課題を再定義する

 

 起業家が課題だと考えていることと本当に解くべき課題の間に、大きなズレがあることがあります。 

実際に私が経験した話ですが、ある起業家が「他社のフードデリバリーサービスの供給システムがすごくいいと思う。だから分析しているんだけど、そのエッセンスが掴めないので、もうすこしリサーチの時間が欲しい」と言ってきました。皆さん、この人をどう思いますか?

私は正直、話にならないと思います。その時、私は彼にこう伝えました。

「その供給システムの何がすごいか、そのエッセンスを解像度高く掴みたいのであれば、デスクトップ上でのリサーチと体感的に学ぶことの両面から解析しないといけない。だけど、あなたは体感的な解析が何も出来てない。これ以上のリサーチをしても無駄だから、今すぐにそのサービスの配達員をやった方がいい」。

ただ、言ったからには責任があるじゃないですか。先ほどお伝えしたように、時にはメンターが一緒に手を動かすことも必要です。実はこの時も、まず私が配達をしたんですよ。夏に3日間ほどアルバイトで。1日3万円くらいの臨時収入になりました(笑)

 

エッセンス7
認識を適正化する

 

エッセンス4の「Factを噛み砕き、解釈を渡す」は“目的”から考えて、起業家の進むべき方向性を修正することでした。ここでの話はそれと似て非なるもので、「“経験“からの修正」を意味します。事業を創造する上で、やってみないと分からないことはたくさんあります。 メンター自身の経験や失敗から学んだことを踏まえて、起業家の誤った認識を修正する ことが時には求められます。

しばしば、「チームが弱体で成果が出ない。自分のマネジメント力を上げないといけない」と、自分のマネジメント力不足を嘆く起業家がいますが、ここでの問題は本当に起業家自身のマネジメント能力にあるのでしょうか?

責任者たる起業家の成長スピードは、当然チームの中では群を抜いています。一方で、チームメンバーの成長はそのスピードには追いつきません。事業が拡大期に入れば、このギャップは起業家とチームメンバーの実力差としてより顕著に現れます。

しかしこれはマイナス要素ではなく、むしろ事業が前に進んでいる証拠です。あまりにも成果が出せないメンバーがいて事業の停滞を招くようならば、「人材の入れ替えと採用をすべき」と言ってあげないと、起業家は解けない問題を解こうとしている状態に陥ってしまいます。

 

エッセンス8
判断軸を育てる

 

起業家の多くは初めて事業へ挑戦するわけですから、どんな観点、判断軸で意思決定をすればいいか分からず、誤った判断をしてしまうことがあります。しかも、判断基準は間違っているけど、結果としての意思決定は合っている、ということも起こりえます。この場合には、 結果で成否を判断するのではなく、判断軸が合っているかどうかを見る といった観点も必要になります。

実際にあった例で見てみましょう。

起業家がある対人サービスを提供しています。そのサービスをもっと利用してもらうために、企業の中の福利厚生サービスの中に自分たちのサービスを組み込んでもらおうかと検討していましたが、結果的に彼は「紹介料が想定よりも高いのでやめます」と決断を下しました。

この場合、やめるという決断自体は合っていました。しかしその決定をするための判断基準が間違っていたのです。私は彼にこう伝えました。「紹介料が高いからやめるべきなのではない。福利厚生サービスを入り口にやってくるユーザーは、あなたの事業に心から共感してやってくるわけじゃない。あまたあるオプションの1つとして消費に来るユーザーであって、自分たちが本当に幸せにしたいユーザーではない」。

このように、起業家がスピーディーに正しい意思決定を行うための判断軸を育てることもメンターの役割の1つです。

 

エッセンス9
ネットワークを使って、メンターだけでは与えられない新たな成長を促す

 

メンターって、自分がサポートをする起業家には「自分の枠の中で育って欲しい」「自分のことだけを尊敬してほしい」と思ってしまいがちです。しかし、メンター1人だけで起業家を育てることは当然不可能です。

自らがフォローが出来ないところは、それが出来る人と引き合わせるべきで、 メンターが起業家を自分の手の内のみに収めようとする態度は最悪 です。

 


以上9つは、メンターが事業を支援する上で持っておくべき引き出しです。「メンターズバー」では記事の内容に加えて、起業家本人、チームを育てるためのエッセンス、さらにはチームを取り巻く環境づくりをお伝えしました。KOCHI STARTUP PARKでは今後もメンター育成に関わるプログラムの開催を予定していますので、引き続きご注目ください。

事業立ち上げを考える方へ

今回お話しした山口高弘さんが、100人以上の起業家との伴走経験をまとめた事業立ち上げのエッセンスを詰め込んだ「高解像度スタートアップガイド」を公開しています。ぜひ合わせてご覧ください。

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