「チェンジメーカーであれ」ーー高知大学講師・須藤順

KSP Article, Interview

経営学を研究しながら、大学や各地域で起業家の育成にも積極的に関わっている須藤順さん。KOCHI STARTUP PARKでもコーディネーターを務めます。
研究と現場の両面からビシネス・起業に触れる須藤さんが、いま起業家育成やリーダーシップについて感じていることを伺いました。

▼目次

  1. 各セクションで人材育成の場づくりを行う
  2. 大切なのは「チェンジメーカー」を生み出すこと
  3. 社会起業家だけじゃ課題は解決できない
  4. リーダーはチームの1機能にすぎない
  5. リーダーかつ、フォロワーであれ/a>
  6. 今の経営には価値観の共有が欠かせない
  7. 多様性は「みんな違ってみんないい」ではない
  8. やり抜くコツは、譲れないものをチームで共有すること
  9. 社会がどうとか関係ない、「やる理由」は自分の内に

各セクションで人材育成の場づくりを行う

普段は、高知大学で教鞭をとっています。私の所属する地域協働学部は、地域の課題解決ができる人材を育てることをミッションとして、高知県内の各地域をフィールドに活動しています。また学内では、アクティブラーニングをベースとした人材育成を行っています。

また、高知県の四万十町では地域イノベーターを育てるお手伝いもしています。連続講座を通じて、対話をベースにしながら、1人ひとりがチャレンジできる環境をつくっていく、といった内容です。

その他、アイデアソンをベースにした共創の環境づくりなど、対等な関係の中で新しい課題解決のためのアイデアをつくり出すといった取り組みのサポートもしています。

大切なのは「チェンジメーカー」を生み出すこと

四万十町地域イノベーター養成講座の様子

四万十町でのプロジェクトは、「チェンジメーカー」と呼ばれる人材を増やしていくものです。

私の専門である社会起業家やソーシャルイノベーション研究では、次のような3層構造があると理解されています。

まず中心には社会を変えられる「社会起業家」がいる。その外にいるのが「ソーシャルイノベーター」。ソーシャルイノベーターは必ずしも起業をしている必要はなくて、企業や組織、行政の中で制度設計できる人材を指します。

そのさらに外いるのが「チェンジメーカー」です。自分が問題だと思うことに1歩踏み出すと同時に、そういうチャレンジをしている人を応援したり、一緒になって行動したりできる人材を意味します。

自分ごとに紐付いたプロジェクトや事業にチャレンジしている人をみんなで応援できるような、そんな支え合う関係づくりを基礎としたイノベーター育成に挑戦しています。

社会起業家だけじゃ課題は解決できない

「社会起業家」ではなく「チェンジメーカー」を増やすというのはここ10〜20年の社会起業家研究の中から生まれた考え方です。

当初は、社会起業家の育成が最も社会にインパクトを与えると考えられ、みんなそこを重視していました。

でも実は、社会的課題を1人の力で解決することはできなくて、その人がどれだけ周囲から共感を得て応援してもらえる環境をつくれるかの方が圧倒的に重要だということが分かってきたんです。つまり、社会起業家とそれを取り巻くソーシャルイノベーター、チェンジメーカーを含めた、多様な主体が関わり合う生態系(エコシステム)が大切だということです。

チェンジメーカーがたくさん生まれるから、その環境の中からソーシャルイノベーターが生まれるし、ソーシャルイノベーターの中から社会起業家も生まれてくるという構造です。

ですから、点を育てるよりはまず面(コミュニティ)を育てること、つまりチェンジメーカーを生み出せる環境をつくりたいと思っています。この考え方は、KOCHI STARTUP PARKとも通ずるところがありますね。

リーダーはチームの1機能にすぎない

研究サイドやメディアはどうしても、ある特定のタレントに寄った見方をしてしまいがちです。

しかし、Appleや松下電器(現・パナソニック)だってスティーブ=ジョブズや松下幸之助といったトップだけで社会を変えていったわけではありません。同じビジョンに向けて一緒に歩みを進めることのできる仲間、チームがいたことが大きいんです。

起業家育成に関する世界的な動きを見ても、いかにしてチームに必要な機能を揃えるかの方が圧倒的に重要度が高いと言われていますから、そこに重点を置こうということです。

リーダーかつ、フォロワーであれ

ハーバード大学の教授に、コミュニティオーガナイジング(=社会を変えるために、周りを巻き込み、その力を活用して課題を解決する手法)という理論を提唱しているマーシャル=ガンツさんという方がいます。彼が主張しているのはスノーフレーク(雪の結晶)型のリーダーシップというものです。

従来のリーダーはヒエラルキーのトップにいて、メンバーたちを引っ張るものでした。

一方、スノーフレーク型では、チームを機能させるために、外向けにはこの人がリーダーで、プロジェクトを進めていく時にはこの人がリーダー、内部の関係形成の面ではこの人がリーダーで、といった形でそれぞれが共感をベースにリーダーとフォロワー両面の役割を担う必要があると考えます。

特に若者の育成をしていると、私自身もこの点の重要性を強く感じます。

須藤さんが運営に関わる高知大学の「起業部」

私は高知大学で「起業部」の運営に関わっていますが、その中にはいわゆるリーダーシップのある学生たちも毎年何人かいるんです。

すると、その周りの他の学生たちは「私には彼らほどやりたいことがない」とか「彼女ほど行動力がないからダメなんだ」と思ってしまう。だけどそういう彼らにはまた別の能力があって、結局、それぞれがどういう役割を持っているかなんですよ。

ただ1つ共通して言えるのは、全員がチェンジメーカーでなければいけないということ。社会や地域、身の回りの気になることに対して、チャレンジすることを称賛し合える価値観を共有できていることが非常に大切です。

今の経営には価値観の共有が欠かせない

これまでは、トップがやりたいことにメンバーが協力するという形態の会社が多かった。

しかし今は、全員の「じぶんごと」が共有されて「みんなごと」になることが必要だと感じます。特にスタートアップのようにまだ収益が立たず、お金だけが目的で動いているとは限らない場合は、1人ひとりのコミットメントが明確でないと経営は難しくなります。

だからこそ私は「マイプロジェクト」のアプローチを大切にしています。お互いの価値観を深いレベルで共有していないと、事業が走り出した後に「やっぱり違う」となるのはリスクが大きいですからね。

マイプロジェクトとは
その名の通り、私が「何かを、プロジェクトとしてやってみる」ことを意味する。個人の「なぜ?」や「やってみたい」をプロジェクトとして実行し、社会とつながり、社会を動かす活動。KOCHI STARTUP PARKでもプログラムに取り入れている。

まだ誰もやっていない、そもそも市場やニーズがあるかすらわからないことを、周囲からの否定にさらされながらチャレンジするわけですから、その時に支え合えるようなコミュニティ、何かあれば戻れる場所をちゃんと自分たちで持っているかどうかが大切となります。

多様性は「みんな違ってみんないい」ではない

ただ、ここで注意が必要なのは日本人の多様性に対する理解です。多くの日本人は多様性を「みんな違ってみんないい」と捉えがちです。

しかし、本来の多様性は「みんなが違っていることを理解した上で、お互いが合意する」ことです。全員が全く同じ価値観で、全ての意思決定に合意するなんてことはありえないですよね。ただし、その人が何を目指しているか、どんな生き方、価値観で物事に取り組んでいるかを共有できていれば、その考え方を理解できます。

私が何らかイベントを開く時には、その場づくりや入り口のデザインを大事にするのもまさしくそのためで、例えば参加者の中にもうすぐ奥さんの出産を控えている方がいるとなれば、その人がプログラム中に携帯を見ても仕方がないなって思える。その文脈を共有できているかどうかによって理解が変わるわけです。

やり抜くコツは、譲れないものをチームで共有すること

起業家なんて何をやったって最初は否定される。だけど、どんなに否定されてもこれだけは譲れないものがあるってことに気づいた瞬間から、本当の1歩が動き出すんだと思います。

だから、その譲れないものが何なのかをチームで共有できるかどうかが大切で、それが1人よりはチームの方が圧倒的にレジリエンス(困難な状況にも柔軟に適応し、生き延びる力)やグリット(やり抜く力)が高くなるよねということです。

社会がどうとか関係ない、「やる理由」は自分の内に

日本人は、全ての理由を自分の外に置きがちです。社会がどうとか周りがどうとか考えますが、どんな人にだって、それをやる理由が自分の生きてきた中に絶対あるはずなんですよ。これまでの教育では、そうした自分自身と向き合う時間をあまりとってこなかったのだと思います。

今の学生を見ていると、綺麗な理由を求めたがります。就活の面接なんかは顕著ですよね。だけど、それ嘘じゃんと思うわけです。自分が見過ごしてきた、逃げてきたこととちゃんと向き合うマインドセットを持つことが大切だと改めて感じています。

次回は、須藤さんのインタビュー[後編]をお届けします。


須藤順(すとう・じゅん)/ 高知大学地域協働学部講師
高知大学地域協働学部講師。博士(経営経済学)。社会福祉士。神戸大学非常勤講師、ビジネスブレークスルー大学非常勤講師。医療ソーシャルワーカーに従事後、医療関連施設の立ち上げと経営に参画。その後、(独)中小企業基盤整備機構リサーチャーを経て、現職。専門は、社会的企業/社会起業家、コミュニティデザイン/ソーシャルデザイン、アイデアソン、起業家育成。近著『アイデアソン!: アイデアを実現する最強の方法』徳間書店(共著)。アイデアソンや起業家育成支援、高知大学「起業部」の運営に携わり、人や組織、地域の主体性と創造力を引き出すをテーマに全国で研究と実践を行っている。2018年2月中小企業庁・創業機運醸成賞受賞「マイプロジェクト手法を活用した学生向けの起業・新規事業開発支援」

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