会社の解散を目指す株式会社、社会課題にビジネスで挑む━━リバースプロジェクト代表取締役・龜石太夏匡

KSP Article, Interview

9月15日に開催した第3回スタートサロンでは「社会価値を持つ事業の立ち上げについて」をテーマにトークセッションを開催しました。「人類が地球に生き残るために」を理念として掲げ、アートやクリエイティブの力で社会課題の解決に挑戦しているリバースプロジェクト代表取締役の龜石太夏匡(かめいし・たかまさ)さんのお話をまとめました。


ゲストスピーカー

リバースプロジェクト代表取締役 龜石 太夏匡さん
1971年東京都生まれ。学生時代から脚本家を志しながら俳優としても活動し、北野武監督「ソナチネ」等に出演。1993年、2人の兄とともにアパレルショップ「PIED PIPER」を渋谷で立ち上げ、ファッションシーンをけん引。その後、映画『カクト』『ぼくのおばあちゃん』『セイジ陸の魚』の脚本・プロデュースを手がける。2009年、伊勢谷友介とともに「人類が地球で生き残るためにはどうするべきか」を理念に株式会社リバースプロジェクトを設立。


▼目次

    1. リバースプロジェクトとは?
    2. アパレルオープン、映画を作る、リバースの立ち上げ……全てが逆境からの挑戦だった
    3. ビジョンとは何か? 未来とは何か?
    4. 「灰色」である自分を自覚し、「白」にむかって歩む
    5. 映画づくりで見えてきた、山積みの社会課題
    6. 映画完成までに7年、「あんなに嫌だった時間が、一瞬で美しいものになった」
    7. 社会課題解決型のビジネスは簡単ではない、それでも風向きは少しずつ変わってきている
    8. 社会価値と事業価値、両立の1歩目は自分の中の強いビジョン

リバースプロジェクトとは?

リバースプロジェクトは、「人類が地球に生き残るためにはどうするべきか?」を理念に、龜石さんと俳優でもある伊勢谷友介(いせや・ゆうすけ)さんが、様々な才能を持ったアーティスト・プロデューサーと共に、2009年に設立。さまざまな企業や団体、地域とコラボレーションし、クリエイティブの視点から、社会課題の解決を目指しています。

衣食住を中心に、さまざまなプロジェクトを進めている。(https://www.rebirth-project.jp/project/より)

アパレルオープン、映画を作る、リバースの立ち上げ……全てが逆境からの挑戦だった

━━まず、リバースプロジェクトについて、改めて龜石さんの言葉で教えてください。

リバースプロジェクトがどんな会社かはウェブサイトなど見てもらえればわかるので、私の視点から、簡単に説明します。

私たちリバースプロジェクトは「会社が解散すること」をゴール設定としています。これは通常の会社とは大きく異なる点だと思います。リバースプロジェクトのクライアントは社会課題ですから、社会に課題がなくなれば、我々の存在意義はありません。そしてその状態を目指して挑戦を続けています。

また、私たちは逆境の中から絶えず挑戦を始めています。

リーマンショックが起きた2009年に、私と伊勢谷友介が前身の組織を立ち上げたのがリバースプロジェクトのスタートでした。

経済的に非常に厳しい環境の中で、人類とか環境とか地球とか未来とか、そんな大きく美しいキーワードで株式会社をやろうとしても、先輩方から「龜石くん無理だよ。そもそも何を売ってるの? 何でお金稼いでるの?」と言われました。10人中10人が無理だと言いました。

もう少し紐解いて、私個人の話をさせてください。私のキャリアのスタートは、20代の頃に3兄弟でアパレルの会社「PIED PIPER(パイドパイパー、2001年にクローズ後、現在は「PIEDPIPER REBIRTH PROJECT」として再始動している)」の立ち上げでした。それもちょうどバブル経済がはじけた後の1993年でした。その時も、リバースプロジェクトを立ち上げた時と同じようなことを言われていたんです。「こんなに不景気で洋服なんか売れないよ」と。

その後、もともと映画を作ることを目標としていた私は、30歳から映画の世界に入ります。そこでも、「30歳から映画の世界なんて無理だよ」と言われます。

そしてリバースプロジェクトを立ち上げ、今まで来ています。私個人も、リバースプロジェクトも、いつも逆境から、無理だと言われることに挑戦してきました。

ビジョンとは何か? 未来とは何か?

ここで、「ビジョン」というものについて僕個人の考えをお話ししたいなと思います。

よく、「会社にはビジョンが必要だ」「ビジョンを持ちなさい」と言われます。では、ビジョンとは何でしょうか? ビジョンの意味が分かっていないのにビジョンを描くことはできません。ビジョンは何のためにあるのでしょうか?

それはたったひとつ、未来のためです。あらゆるプロジェクトは過去のためにあるわけではなくて、未来のためにあります。みんな未来のために頑張っている。

ここでさらに考える必要があります。「未来」って何でしょう? 小学校4年生ぐらいになれば漢字でも書ける。でも、未来を説明できますか?

これはあくまで僕が考えている未来ですが、今の社会の中でも未来を表現しているシステムがいくつかあると思っています。例えば天気予報。明日の天気はどうなのか、降水確率、最高気温は。週間天気予報を見てなんとなくスケジュール考えて、行く場所を決めたり、着るもの考えたり。それから為替や株価、仮想通貨。これも1つの未来かもしれません。いろいろな情報を取り入れて、きっと上がるだろうというところに自分のお金を張って、儲かるか儲からないか。

いま説明したこれらってすべて「予測」なんですね。今、我々人間の社会のレベルで未来を語るとしたら、せいぜい予測のレベルなんです。

それでは、次の問い。「予測」とは何か。

予測とはありとあらゆる情報を取り入れ、自分が持っている知識、知恵、経験、時間などの過去のすべてを駆使して、最終的に人間が持ってる一番素晴らしい能力である想像力をもって、「良い」予測を立てて実行することなんです。誰も悪い予測を立てて実行することはない。みんな絶えず良い予測を立てて実行する。そしてこの予測の時間が1週間か1年か、はたまた10年なのかだけの差です。

いま説明したことは、まさしく「プロジェクト」の説明とも言い換えられます。プロジェクトを説明してくださいって言われたら今の説明になるはずなんです。ではプロジェクトには何が必要かというと、お金と労力と時間。この3つが揃ったら大体のプロジェクトは動き出します。ただし、成功するかしないかは分かりません。それは未来のことなので。

プロジェクトに必要な3つの要素の中で、お金と労力は取り返しがつきます。たとえプロジェクトで失敗したとしても、次のプロジェクトで取り戻せばお金は何とかなるかもしれない。労力、疲れたら眠ればいい。キャスティングが違っていたら変えればいい。

ただ、時間だけは取り返しがつきません。3週間かかったプロジェクト、半年かかったプロジェクト。何にせよ、掛けた時間だけはどうしたって巻き戻すことはできないし、取り返すことができません。

では「時間」とは何か? 私は時間とは命だと考えています。我々は、生まれた瞬間に命という時限爆弾を持って生まれている。限られた時間の中で生涯を生きている。その中に寝る時間もあれば食事をする時間もある、デートする時間も欲しいし、家でゴロゴロしている時間もある。そんな中で、仕事をする時間は本当に限られています。なおかつ、未来について考える時間なんてさらに限られている。

もし時間が命だとするならば、命は何のためにあるのでしょうか? 僕はただひとつ、未来のためだと思っています。

僕らの父親の世代、祖父の世代、曾祖父の世代。別に僕らの世代を悪くしようと思って生きてきたわけではありません。必死になって自分たちの子ども、孫の未来が良くなるようにと頑張ってくれました。たまたまその時の時代背景だったり、情報が足りていなかったりで、今これだけの課題を抱えてしまっただけだと思います。

良いことも悪いことも、作ってきたのは大人です。子どもにもこれから新しく生まれてくる命にも何の罪もありません。作ってきたのが大人である以上、大人がこの課題を解決しなければいけません。そこで我々は「人類が地球に生き残るため」と考えた。ではこれを1つの理念、会社のルールとしてやっていこうと考えたんです。

ビジョンとは何のためにあるのかを考えたら、未来のため。その未来をさらに掘り下げて考えてみたら、また未来に戻った。こうした思索を経て、自分の、そして会社の軸が決まっていったんです。あらゆる場面で、自分がぶれていないかどうかをこの軸に照らして考えます。

「灰色」である自分を自覚し、「白」に向かって歩む

ただ、僕らリバースプロジェクトが株式会社である以上、毎月、それなりの大きなランニングコストはかかります。それ以上の利益を出し続けなくてはいけません。そこでは、馬鹿正直にただ盲目的に良いことをすればいいというわけではありません。

ここで問題になるのが、今回のテーマにもある「事業と社会というものをどうやって両立させるか」です。

そこでまず自覚しておかなければならないのは、僕らが立っている所は灰色だということです。僕たちは、未来すらも語れない。時間や愛、嫉妬……わかっていたつもりでも、我々はそれを見たこともなければ、正確に語ることもできない。我々はいつも灰色な場所に立っています。

何かというと、自分がプロジェクトを動かす時に、自分がどうあるかが大事だということです。自分が黒に向かっている灰色なのか、白に向かっている灰色なのか、その判断、それをどう選択していくか。これが自分がの生き方、もしくはチームであればその指針になります。そこがブレているなら、みんなで話し合って合意形成をすればいい。結果が出たら、それを踏まえてまたチームで考える。

今、我々が立ってるところはあくまでも灰色だという事を自覚する必要があります。その灰色の先を我々は黒に設定しているのか、白に設定しているのか。仕方なく片目をつぶる瞬間もあるし、両手で耳を塞いじゃう瞬間もあるけれども、でもなるべくなら、しっかりと前を向いて、両目を開いて、ちゃんと音を聞いて、胸を張って進んで行けるようなプロジェクトをやっていきたい。絶えずそう思いながらこの10年間歩んできました


愛媛県と取り組んだ「愛媛シルクプロジェクト」は、立ち上げから1年余りで「ふるさと名品オブ・ザ・イヤー」地方創生担当大臣賞を受賞した。

映画づくりで見えてきた、山積みの社会課題

━━そもそも、リバースプロジェクトはどのような経緯で生まれたんですか?

僕と伊勢谷友介の出会いはもう20年以上前になります。もともと映画作りをやっていまして彼が監督で、僕が脚本とプロデュースでした。

映画って過去の題材をテーマにした未来へのメッセージなんです。それなりの予算、それなりのプロフェッショナル集めて、時間をかけてやる大きなプロジェクトです。最初の作業は脚本開発といって、どんなテーマにするか、どんな作品にするのかを、徹底的に会話するんです。

それを哲学や文学、カルチャー、自然、環境、それから世界情勢や政治。ありとあらゆる角度から未来へ繋げる会話をする。そうすると、ある面で社会課題に行き着いてしまうことに気付いたんです。どの角度から未来を話しても、結果的に社会課題が出てきてしまう。未来を語る上で、社会課題からは目を背けることはできないんだなということに気づきました。

映画完成までに7年、「あんなに嫌だった時間が、一瞬で美しいものになった」

そこに気づいたら、2つの道に分かれます。1つは、そんな難しいことを考えずに好きなことをやっていこうよという道。これは決して否定される生き方ではありません。むしろ今では、そういう生き方が賞賛される見方もあります。もう1つは、現状に責任を持つべき大人として課題に向き合って、少しでもいいから解決の糸口を見つけようとする道です。

僕らはめんどくさい奴だったので、後者を選びました。そうすると映画のテーマも決まってきました。最終的に、作った映画が「セイジ 陸の魚」という映画ですけど、脚本を書いて映画にするのに7年掛かりました。

この過程で2つ、とても大きな気づきがありました。

正直、この映画完成までの7年間は本当に苦しかったんです。全てがきれいごとのように進んでいくわけではありません。お金集めのために、必死に付き合いたくない人と付き合ったりしながら、挫折を何度も繰り返し、本当に苦しくて嫌な時間でした。大変な時間でした。

ただ7年目で、それをスクリーンで見た時、「ああこれまでは、この瞬間のためにあったんだ」と実感しました。今まであんなに嫌だった時間が、すごく美しい時間になったんです。この価値観、経験はその後リバースプロジェクトでプロジェクトを動かす時にもすごく大切なものになりました。どれだけ地味な時間を費やしてでも、ちゃんとゴールに持っていく。それが成功するかしないかはおいて、必ずゴールにむかって脚本を書ききることの大切さに気づくことができました。これが1つ目の気づきです。

もう1つは、こんな大変な思いをして映画を作っても、見た人は2週間くらいで忘れちゃうよね、ということでした。だったらもっと、我々が継続して何かを発信する機能をつくろうと考えたんです。伊勢谷が芸大出身で、僕がアパレルをやっていましたから、周りにはクリエイター、デザイナー、アーティストが多かったんです。じゃあこのクリエイティブ、アートの視点、そして映画制作の手法を用いて、社会課題解決型のビジネスを生み出すことはできないかと誕生したのが、リバースプロジェクトでした。

社会課題解決型のビジネスは簡単じゃない、それでも風向きは少しずつ変わってきている

━━社会価値を大切にしつつ、ビジネスとしての成果も出すとはどういう状態を指すのでしょう? またどうすればそれが実現できますか?

まず簡単なことではないと思ってください。我々のこの社会課題解決型の事業では、企業や自治体、行政、個人などさまざまなセクターがパートナーになりますが、ここで認識しておかなければならないのは、お金を出したから偉いわけじゃない、ということです。お金を出すことと、アイデア出すことには同等の価値があるという状態が理想だと考えています。

なかなか、その理想に追いつけていないのが現状ですが、どっちかが上とか下とかじゃないということは、プロジェクトを共にする上で、きちんと伝えていく必要があると感じています。

お互いにビジョンやゴール設定を共有して、それぞれの力を120%出し合うからこそなんとか形になる。しかしそれでも成功するかしないかが不透明なのが、この社会性事業、社会型のプロジェクトだと実感しています。

リバースプロジェクトのビジネスモデル(https://www.rebirth-project.jp/company/より)

最近では、我々のようなプロジェクトを後押しする動きも少しずつ出てきています。その1つに、国連が2015年に発表した「SDGs(=持続可能な開発目標)」があります。世界が取り組むべき社会課題を17のターゲットとして規定したものです。

こういうものが生まれてきたことで、リバースプロジェクトがこれまでやってきた活動がどの目標に対してのものだったのか、改めて整理することもできますし、取り組みの価値を社会的に理解してもらいやすくなります。それまで、10説明するのに15くらい一生懸命説明してもポカンとされたり、「そうだよね、わかるけどね、いや前例がないんだよね」って感じだったものが、こういう社会的な後押しもあって、ちょっとずつ流れが変わってきているのを感じています。

SDGsが掲げる17の目標

社会価値と事業価値、両立の1歩目は自分の中の強いビジョン

ただ1つ覚えておかなければならないのは、こういう動きが出るくらいに、問題が深刻化しているということです。これは日本に限らず、世界中が。社会や環境だけではなく、人間の心の問題も同じです。

僕は、理想の未来と、ちょっと良くない未来は、竹を割った時のように、両側に広がってくようなイメージを持っています。

今どっちに進んでいるかを考えた時に、能天気に「未来は希望に溢れていて最高でしょう」という人もいるかもしれないけど、僕は少なからず、あまり良い方向に向かっていないように感じています。でも、まだ少しくらいの開きなら、SDGsのようなひとつのきっかけを足掛かりに、希望の未来に向かうことは可能だと思うんです。

ただ、これが10年、20年、30年と広がって、何も解決策を出せず、僕らがせいぜい20年、第一線で頑張っても何も変わらない、波に消えてしまうんだとしたら、少し絶望を感じますよね。これは僕のエゴイスティックな価値観ですけども、究極には自分のエゴイスティックな価値観からしか、利他的な価値観は生まれないと思っています。

繰り返しですが、「社会価値と事業価値を両立する」ためのヒントは、自分の心のなかにどれだけ強いビジョンとか信念を持つかです。そこにテクニックや経験、自分だけでは足りなければそれを持った人たちを巻き込んで、ビジネスとしての成果につなげていくことが必要なのではないかと思っています。

 


今回のイベントで登壇された龜石さんが代表を務めるリバースプロジェクトでは、今回取り上げた以外にも過去10年間で数々のプロジェクトを手掛けています。今回のお話にあったような「ビジネスとしての社会課題解決」をより具体的にイメージできるかと思いますので、興味のある方は是非ウェブサイトから、各プロジェクトの詳細をご覧ください。

また、KOCHI STARTUP PARKでは、隔月第3土曜日に「スタートサロン」として今回のような起業の種を見つけるためのイベントを開催しております。その他、起業推進のためのプログラムやメンタリングの機会なども提供しておりますので、興味のある方は、ウェブサイトFacebookページをご覧ください。

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