〜Grace Food 松田康平さん〜

地域課題を解決し、ペットも飼い主も幸せになるフードを開発

 

高知県産の鹿肉を中心とした無添加のペット用ごはんを手がける「Grace Food」。
立ち上げた松田さんの起業のきっかけとなったのは、愛犬への思いと地域の課題を解決したいという熱い思いでした。



 

IT企業に勤めながら起業家育成プログラムに挑戦



いの町で高校卒業までを過ごし、大学進学とともに東京へと移りました。
大学卒業後は商社へ就職し、経理・財務部門を担当し、社会人生活を送っていました。
大きな組織で安定した環境でしたが、10年後、20年後のことを考えるともう少し挑戦的な環境に身を置きたいと社会人5年目にIT企業へ転職することを決めました。
経理・財務部門担当として入社し、Fintechと言われる金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた当時としては革新的なサービスに触れるなど、世界でも最先端の情報やテクノロジーに触れる機会が多くありました。

そんな中で、自分の中に沸々とよみがえってきたのが「いつかは独立して、自分で事業をしたい」という想いです。
大学時代から漠然と起業したいという思いを抱いていましたが、明確な事業プランまでは描けていませんでした。
そんな時、経済産業省が主催する「始動」という起業家育成プログラムがあることを知ります。この2期生に参加しようと、初めて本格的な事業計画を作り個人で応募しました。

その時の事業計画は、独居老人が社会から孤立せず、その土地で住み続けられるような仕組みづくりを考えたものです。
社会が抱える課題をテクノロジーの力で解決したいという想いを形にした事業計画でした。
起業未経験ですが行動力と情熱が評価され、国内における半年のプログラムの後に、男性最年少として米国シリコンバレー選抜の20人に選ばれることができました。
検証がうまくできず、最終的には起業には至りませんでしたが、「起業0.2」くらいの経験を積むことができたことは大きな財産となっています。
その後、大手外資IT企業に転職し、現在に至ります。




ペットは愛する家族。楽しいごはんの時間を過ごしてほしい

「Grace Food」立ち上げのきっかけとなったのは、2020年に犬を飼い始めたことです。
それまでも実家でシーズーを飼っていたことがあり、17歳の大往生だったのですが、歳を取るにつれて皮膚の病気や目の病気を患っていました。
犬の健康を維持するために、何かすることができなかったのかとずっと私の心に残っていました。そんな経験があったので、犬の健康に良い食事を調べ、手作りごはんを作っていました。調べていくと、犬も猫も人間と同様に食事の楽しみがあることが分かりました。

もっと食事を楽しんでほしいと思っても、レシピが分からなかったり、栄養素が分からなかったりと情報や素材を手に入れる難しさを感じます。
「手軽に作れる犬用のミールキットがあればいいのに」という「こんなサービスあったらいいな」が、起業の種となり動き始めました。

写真:松田さんの愛犬と愛猫



 

アドバイスを受け、事業計画が一気に加速

2022年4月、株式会社アルファドライブ高知の宇都宮さんに頭の中にあるアイデアを相談しました。
ミールキットを作りたいこと、しかしキーになる食材がないことなどです。
それに対していろいろなアドバイスをもらう中で、田舎では有害鳥獣による被害があることや、捕獲した鹿や猪の肉が廃棄されていることを教えてもらいます。
お話しした時には情報量が多くてピンときていませんでしたが、帰って冷静に考えると鹿肉が持つ可能性の高さに気づきます。

地方では、商流にのらない害獣は埋めたり焼却されたりと廃棄されています。
一方で、健康に良い食材を必要としている犬や猫、そしてペットの幸せを願う家族がいる。
地域課題を解決し、お客様に喜んでもらえ、そして自分のやりたいことも実現できる、誰にとっても幸せなビジネスモデルを構築できるのではないかと、真剣に事業の実現に向けて動き始めました。

起業の準備に向けては、3ヶ月ほど高知でテレワークしながら情報収集を行いました。
自分にとって未経験の事業のため、どうやって仕入れ、どうやって販売したらいいのか手探りでの出発でした。もっとも重要な鹿肉の仕入先については、梼原町でジビエ肉の解体を行う「ゆすはらジビエの里」です。
自分の思いをストレートに伝え、高品質な鹿肉を取引させていただけることになりました。

そして、6月からは「こうちスタートアップパーク」のブラッシュアップコースに参加し、準備が加速しました。
6月末には最初のサンプルが完成し、7月には立ち上げたECサイトで最初の1点が売れました。3ヶ月くらいの検証を経て、「やはりニーズがある」「間違いない」と確信しました。

「Grace Food」が作るごはんやおやつは、ペットフード市場では自然派食品(オーガニック)に分類されます。
プレミアムフードといわれる、こだわりを持つ方向けの商品で、冷凍鹿肉、ジャーキー、ふりかけなど20種類以上の商品を販売しています。

写真:冷凍鹿肉は「Grace Food」の人気商品




地域にとっても、顧客にとっても、そして自分にとっても価値のある事業を

事業計画を練っている時には、鹿の捕獲に関することも調べていました。
そのため、猟師さんの高齢化といった後継者問題や、捕獲後すぐに処理できるようなシステムづくりはできないかと、調べれば調べるほど、事業内容がそちらの方に引っ張られていきました。

そんな時に、宇都宮さんをはじめとするメンターの方々が「まず向き合うべきはお金を払ってくれる顧客」と引き戻してくれました。
そのアドバイスがあったから、事業を本来目指していた形に引き戻すことができました。
事業の根幹にあるのは、「ペットも人も、楽しいごはんの時間を過ごしてほしい」というシンプルな願いです。その思いをブラさず、「Grace Food」の事業を前進させることができました。

10月には、二子玉川駅前で開催されたマルシェに初出店。
4日間で240名ほどのお客さんが購入してくれ、目の肥えたお客さんに評価してもらえたことは大きな自信となりました。その後、自由が丘のマルシェにも参加し、ファンの獲得につながっています。

現在は、犬も人も食べられる「ボーダレスごはん」の開発に取り組んでいます。
ヒューマングレードのペットごはんはすでにありますが、人が同じものを一緒に食べられるものはまだありません。
試作品としては、高知の鹿、かつお、トマト、ビーツ、牡蠣などを用いた瓶詰めの3品が完成しました。
これらは二子玉川で出会った同じビジョンを持った仲間(FOGさん)に協力してもらい、開発しました。
今後は高知の食材「Grace Food」のごはんを通して、人とペットが「おいしい」を分かち合える、幸せな時間を過ごしてもらいたいと思います。

 





Grace Food
https://shop.gracefood.jp



文責/長野春子