「高知の人は数十年後の未来を生きている」──高知大学講師・須藤順

経営学の研究者でありながら、大学や各地域で起業家育成にも積極的に関わる須藤順さん。

前回の記事では、周囲のチャレンジを応援できる「チェンジメーカー」の重要性、いま求められるリーダーのあり方などをお届けしました。後編の今回は高知のようなローカル地域でのチャレンジに大切なことなどを伺います。「高知の人が未来を生きている」とはどういう意味なのでしょうか。

▼目次

  1. 事業の中身よりも地域での関係構築がカギ
  2. ローカルで成功する起業家に、必ずしも知識とスキルは必要ない
  3. 安心してチャレンジができる環境づくり
  4. 起業家と伴走して決断を支えるメンターがいま必要
  5. 都市部にはない、ローカルならではの評価軸を持つ
  6. 地域の実情に合ったやり方を
  7. 1社で100億ではなく、1000社で1000万円ずつ
  8. 高知の人は数十年後の未来を生きている
  9. まずは1歩踏み出してほしい

事業の中身よりも地域での関係構築がカギ

私は青森出身で、一度東京へ出た後、現在は高知と各地を行ったり来たりして働いています。その経験から、ローカル地域でのチャレンジについて感じていることが2つあります。

1つは、ソーシャルキャピタル(地域における人々の信頼関係、結びつき)と呼ばれる人と人の関係性がもたらす影響が、都市部と比べて圧倒的に大きいということです。

名古屋や京都などがわかりやすい例ですが、地域の特色が強いほど、やっていることの良し悪し以前に、その地域での関係形成にどれだけ時間を掛けられたかが大切になります。

一方で、一旦関係づくりがうまくいけば、都市部よりもコストをかけず、スムーズに事業をスタートさせられる場合もあります。

ローカルで成功する起業家に、必ずしも知識とスキルは必要ない

もう1つは、具体的なビジネス面での話。

単純に売上だけを考えれば、やはり都市部の方がビジネスをしやすい環境だと思います。都市部はマーケットが大きいため、完璧でなくても一部の人のニーズさえ掴めれば売上を上げる計算が立ちますから。

ところが地方はマーケットそのものが相対的に小さいため、ニーズをはっきりさせないと、顧客を掴みきれずビジネスとして成立させることが難しくなります。

これは地域ごとにも違いがあって、東北と高知ではまた全然違います。東北は関係形成にかなり時間がかかる印象で、南に行くほど関係が築きやすい傾向にあると感じます。高知でチャレンジをする際にはその利を活かすことでうまく事業を推進させることが可能になるはずです。

またローカル地域で成功する起業家は必ずしも知識とスキルを持っている必要はないのではと考え始めています。周りが応援したくてしょうがない、ほうっておけないリーダーになれるかが重要で、周囲を巻き込む魅力、仲間や地域の人とよい関係を築けるかがカギになると思います。

安心してチャレンジができる環境づくり

高知で0→1のチャレンジをする場合、ワイワイと「さあ1歩を踏み出しましょう」といった雰囲気づくりはしやすいと思います。しかし実際に1歩を踏み出す人はそう多くはない印象を受けます。

これは高知の大きな課題の1つですが、原因は支え合えるコミュニティの不足にあると考えています。

一緒にワイワイ盛り上がる場はたくさんあっても、1人ひとりが本当に安心してチャレンジできる環境は不足しているのではないでしょうか。

一般的に起業のリスクとして考えられているのは「売上を上げられるか」「生活できるのか」「家族や誰かに迷惑をかけるのではないか」といったものでしょう。しかし実際に起業に踏み切った人たちを見ていると、これらのリスクは必ずしも本質的ではないように感じます。

むしろ、自分の挑戦を本気で応援してくれる仲間がいる安心感、何があっても立ち戻ることができるセーフ・プレースがあることが重要なのです。そうした場は、お互いの価値観や背景を深い次元で理解し合い、切磋琢磨し、何かあれば本気で支え合う関係が形成できていることが大切です。

起業家と伴走して決断を支えるメンターがいま必要

また、メンターの重要性も感じます。アドバイスをしたがる専門家はたくさんいますが、チャレンジャーのモチベーションをコントロールしてあげられるメンターがまだまだ不足しています。

KOCHI STARTUP PARKでも、メンター育成プログラム「メンターズバー」を開催した

起業は、何らか自分が信じる価値を実現する行為です。それは一種の「学習」のプロセスでもあります。起業家には、外から与えられる知識やスキル以上に、困難で正解のない道のりの中、学び続け、やり抜くだけのモチベーションを維持することが強く求められます。そんな時に必要なのは、起業家自身の迷いや不安に根気強く寄り添い、問いを通じて自身も気づいていない視点や想いに気づかせ、自ら1歩踏み出すと決断できるように支えることです。

起業家育成の現場においていま最も不足しているのは、こうした起業家のモチベーションを支えるメンター人材の不足ではないでしょうか。

都市部にはない、ローカルならではの評価軸を持つ

KOCHI STARTUP PARKでは「チャレンジすることをお互いが認め合い、称賛し合い、支え合うことができる」そんなコミュニティをつくれたらと思っています。

都市部の場合、売上やユーザー数といった画一的な軸で評価されてしまいがちです。

ローカルの場合、そういう目標を追う人がいてもいい。でも一方で、全く違う評価軸を自らつくることがあっても良いですよね。

「数億円は稼げないけれど、自分1人が生きていける」、そんなビジネス(マイクロアントレプレナー)も良いと思うんです。大事なのは、1人ひとりが自分のwillに従ってアクションを行うことなのではないでしょうか。

地域の実情に合ったやり方を

都市型の考え方では、数ある中のある1社、100億円を生み出すような企業を育てて大きなインパクトを目指しがちです。

地方で同じ考え方を採用した場合、企業がそれだけ大きくなれば、必然的に地域の中だけで働き手や資源を調達することは不可能になります。それだけの売上を地域内の需要だけで充足できるわけもありませんから、事業規模の拡大は、同時に地域との距離を生んでしまう可能性をはらんでいます。

熱心に企業誘致を進める自治体もありますが、誘致企業で働くために高いスキルや経験が必要な場合もあり、そうした人材が地域にいなければ、別の地域から人材を獲得せざるを得ないということもありえます。

人以外の資源についても同じです。地域になければ、外から買わなくてはいけない。これが今までの地方の起業家・産業育成のやり方でした。これは地域の実情にはそぐいません。

1社で100億ではなく、1000社で1000万円ずつ

ではどうすべきか? 私は、1社で100億ではなく、年商1000万円程度の小さな企業を1000社生み出すことの方が地域にとって価値があると考えます。

金額的には同じでも、1000社の企業があれば、それぞれの企業間でお金のやり取りが生まれるし、その地域にお金も落とせる。この方が地域のネットワークを維持できて、経済以外の面でも多くのインパクトを生み出せる。地域のネットワークが維持できれば、それがサポートネットワークとして機能することも期待できます。

大きなところに頼ってしまうと、効率的で利便性が高まる一方で、そこが遮断された時にすべてが機能しなくなってしまう。1つひとつは小さくてもその中で循環を生む社会をつくれれば、どこか1つが遮断されても、お互いに補完し合うことができます。

高知の人は数十年後の未来を生きている

実は高知はとてもラッキーな場所で、すでに地域としての課題が顕在化しています。これらの課題は、今後数十年の内に日本国内の他の地域や世界各国で、同様に大きな問題として解決が求められます。

ということは、今、高知の地でこれらの課題に対応する方法をトレーニングできたならば、将来的には国内、海外を問わず事業を展開できる可能性を秘めているのです。その意味で、高知の人たちは未来を生きていると言えるかもしれません。ローカルからグローバルに展開することも十分に考えられるのです。

まずは1歩踏み出してほしい

これからチャレンジを起こそうとする人には、今の自分の1歩が社会を変えることにつながるということをもっと意識してほしい。

社会を変える人間に共通しているのは、目の前にあった気になることに1歩踏み込んだことです。ほっとけない何かに心が動いてしまって、1歩を踏み出した。ただそれだけなのです。

だから、まずはそれを見つけて、小さくてもいいから行動を起こしてもらいたい。KOCHI STARTUP PARKを通じて、私もその後押しをしたいと思います。

2018年冬には、高知市内に誕生する蔦屋書店内(https://store.tsite.jp/kochi/)に、スタートアップ支援やキャリア支援を目的とした「Kochi Startup BASE」を開設予定です。

コミュニティビジネス、ゲストハウス立ち上げ、ローカルベンチャー育成、リーンスタートアップやデザイン思考、アイデアソンなど、事業アイデアや事業創造を目指した講座の開催に加え、illustratorやPhotoshopなどの習得を目的とした講座、新しい働き方をする方を招いた場を作る予定です。

また、2018年9月からは、高知の起業創業機運の醸成に向けて、移住女子や子育て中の女性を対象に、全国で活躍する女性起業家を招き、起業までのストーリーを参加者と語り合う「こうち女性起業家応援プロジェクト」、学生など若者向けにソーシャルイノベーターを育成する「こうちマイプロジェクト道場」なども研究室が中心となって進めていく予定です。
※詳細は下記をご確認ください。
https://www.facebook.com/KochiStartupBASE/

KOCHI STARTUP PARKも含め、高知に、挑戦することを賞賛し合う文化を生み出していきたいと考えています。


須藤順(すとう・じゅん)/ 高知大学地域協働学部講師
高知大学地域協働学部講師。博士(経営経済学)。社会福祉士。神戸大学非常勤講師、ビジネスブレークスルー大学非常勤講師。医療ソーシャルワーカーに従事後、医療関連施設の立ち上げと経営に参画。その後、(独)中小企業基盤整備機構リサーチャーを経て、現職。専門は、社会的企業/社会起業家、コミュニティデザイン/ソーシャルデザイン、アイデアソン、起業家育成。近著『アイデアソン!: アイデアを実現する最強の方法』徳間書店(共著)。アイデアソンや起業家育成支援、高知大学「起業部」の運営に携わり、人や組織、地域の主体性と創造力を引き出すをテーマに全国で研究と実践を行っている。2018年2月中小企業庁・創業機運醸成賞受賞「マイプロジェクト手法を活用した学生向けの起業・新規事業開発支援」

 


 

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