介護からの“卒業”を目指して──ラクではない13年間も、思いを貫く:合同会社勇七 統括責任者・松田毅

合同会社勇七(いさな)は、高知にて高齢者向けのデイサービス等を展開しています。今回は、同社の役員を務める松田毅(まつだ・つよし)さんへインタビューしました。

松田さんは、KOCHI STARTUP PARKが展開する事業立ち上げの準備プログラム「ステップアッププログラム」にも昨年参加。その後もオフィスアワー(起業相談)等を利用して、継続的に事業推進をご一緒しています。

3ヶ月で見違える変化も、自立支援強化型デイサービス

私が役員を務める合同会社勇七(いさな)では、加齢や生活不活発のために心身が弱った高齢者を対象に、自立支援強化型のデイサービス「トリリオン・S」と、高知県高岡郡中土佐町にて「ケアプランセンター三日月」という施設の運営を行っています。

トリリオン・Sについて、「自立支援強化型」と言いましたが、従来のデイサービスと異なる点は、3ヶ月を区切りとして、介護保険からの“卒業”を目指す点です。

現在は主に、須崎市の「友愛館」という地域の集会所のような場所を借りています。

介護保険の適用はいくつかの段階に分かれていて、私たちの場合は主に要支援1、2と事業対象者という比較的軽度の方々が対象となります。

具体的に、写真のような「下肢3点セット」という3つの運動器具を使います。

こうした運動に加えて、栄養面のアドバイスや口腔機能チェックを月に1〜2回行います。これらを3ヶ月間実施した際に、更に負荷の上げたプログラムを通して改善の見込みがある方に対しては、もう3ヶ月追加でサービスを提供しています。

実際に3ヶ月間のプログラムを通した変化を記録したのが次の二つの動画です。

プログラム参加前の様子
3ヶ月後の様子

二つの動画を見比べてもらえれば、その変化がよくわかると思います。

以前は手すりを両手でしっかりと掴んでいたのが、片手を離しすらすらと階段を降りています。また、姿勢も良くなっていますよね。このように、多くの方が、3ヶ月のプログラムを通じて状態を改善されています。

利用は、1回321円(介護保険利用)で、3ヶ月で約4000円。1回にかかる時間は、2時間半から3時間ほどです。

矛盾を抱える介護保険制度

そもそも、3ヶ月で卒業を目指すこの仕組みは、介護保険制度の現状の運用への疑問からスタートしています。介護保険は、利用者が1~3割負担、残りを国が負担するシステムです。少子高齢化が進む日本では、ますます介護を求める人が増えているわけですが、介護保険のシステム上、重度化すればするほど、デイサービスなどの事業所に入るお金が増える仕組みになっています。逆に言えば、きちんとしたケアを行い、状態に改善が見られると、逆に事業所の収益が少なくなってしまうんです。

事業所だけでなく、利用者からも「介護がいらなくなったから損をした」ように言われる場合があるなど、課題を抱えています。

そこで私たちが提案を進めるのが、介護保険に依存せずにお年寄りの方々を元気にできる方法としての「自立支援強化型」のデイサービスなんです。

もちろん、介護保険の仕組み自体は大切なもので、実際に私たちも介護保険自体は導入しています。しかしその先に卒業を見据え、軽度な方の症状を改善することで、介護保険を無駄に使わず、利用者の方を重度化させないことを目指して運営しなければなりません。

例えば重度の認知症だったり、もともと身体に障がいのある方はやはり介護を必要としていますから、そうした支えを求める方に積極的に保険を使えたらと思っています。私たちとしても、今後、要介護の方に対しても段階的に支援を提供できるような体制を整えていけたらと思っています。

JAとの連携で、社会復帰への足がかりも

「トリリオン・S」は、冒頭でお話しした合同会社勇七の中で運営していて、現在私含め、3名が役員を務め、その他4名(看護師2名、介護士2名)がスタッフとして働いてくれています。

また、運営する「ケアプランセンター三日月」所属のケアマネージャー3名もトリリオン・Sのサポートをしてくれています。

さらに、中土佐町にて、新たにデイサービス施設の開業も目指しています。すでに行政からの建設許可ももらっています。高知県内には、送迎ができないなどの理由からまだまだサービスが行き届いていない地域もあります。そうした方々に対して、私たちが自立支援のプログラムを持って出張するような形で、自立支援のサポートを広げていきたいです。

トリリオン・Sでは、基本的に3ヶ月の支援で卒業となるわけですが、そのまま何もしなければ、時間とともに運動能力は落ちていきますし、また介護を必要とするようになります。

そこで最近、農業協同組合(JA)さんと協力して、卒業生にししとうの箱詰め作業などの仕事をお願いすることになりました。身体を動かすことになりますし、仕事を通して社会参加することにもつながります。それに、卒業した後も、お年寄りの方々で集まって、お話しする機会にもなります。

ししとうの箱詰め作業

正直、3ヶ月の取り組みよりもずっとリハビリ効果が高いんじゃないかと思うくらいです。ただしそのための送迎などは私たちで手配する必要がありますから、そうした部分で行政の方をはじめ、連携できるとありがたいですね。

原体験は13年前に

僕が介護や福祉の分野に携わるようになったのは、13年ほど前です。

最初のきっかけは、あるホームでの勤務でした。ただ、そこで見た介護はお年寄りをぞんざいに扱うようなひどい状況で、愕然としてしまいました。私自身はよく祖父母に面倒を見てもらっていたので、こんな仕事をやっていてはいけないと強く思ったんです。

この施設では2年半ほど勤務、その後、昔お世話になった方が有料老人ホームの立ち上げを行うということで、その立ち上げから関わることになりました。そこで3年務める中で介護福祉士とケアマネージャーの資格を取り、それをきっかけにケアマネージャーの仕事に興味を持って、別の老人ホームにてケアマネージャーのキャリアを積み、独立。現在に至ります。

ケアマネージャーの多くは各事業所に所属していて、利用者のお話を聞いて適切なサポートを提案します。例えば足が弱っているならリハビリを進めたり、お家での生活が困っているなら、ヘルパーさんを手配してマネジメントしたり、といったイメージです。

ただ、どうしても事業所に所属している以上、その事業所のサービスやヘルパーさんを利用するよう促さざるをえない面もあり、自由な提案が難しい場合もあります。本来は、そのような事情は関係なく、その人に最も合ったサポートを提案すべきだと思っていましたので、それも独立を決めた理由の一つでした。

行政との連携も視野に、自立支援の拡充を目指す

会社自体は、ケアプランセンターの収益を柱としており、まだまだ自立支援単体で運営を行えるほどの事業にはなっていません。しかし、地道な活動のおかげで、最近では行政の担当者や、議員さんにも視察に来てもらえるようなことも増え、少しずつではありますが、注目いただけるようになってきたかな、と思っています。

高知県内には、私たち同様に自立支援の取り組みをしている事業者がいくつかあります。どこもラクな運営ではありません。今後もますます需要が高まる分野ですから、お年寄りの方々の生活を支えるためにも、各所と連携して、支援体制を整えていきたいと思っています。

おすすめ記事