〜青いしろくま 井上佳奈さん・篠田雄生さん〜

2人の経営者が「得意」を活かすお店

今回は高知県四万十町にある道の駅「あぐり窪川」で、地元で採れた仁井田米を使ったおにぎりとコーヒーを販売する「青いしろくま」をオープンさせた、井上佳奈さんと篠田雄生さんにインタビューしました。
おにぎりとコーヒーという、やや異色な組み合わせの秘密や、起業までの経緯をお伺いしました。



地域おこし協力隊として四万十町へやってきた2人


写真左から井上さん、篠田さん

井上さんは2021年2月、篠田さんは2021年11月に「地域おこし協力隊」として四万十町へやってきました。
地域おこし協力隊にはそれぞれミッションがあり、井上さんは「仁井田地区の地域づくり担当」、篠田さんは「地産外商担当」です。

井上さん:四万十町へ来る前は食品メーカーで研究職として働き、海外工場で新商品の開発を行なっていました。
規模や責任の大きな仕事を担当することに誇りを感じながらも、一方で自分の目指す働き方との差があるように感じ、段々とその違和感が大きくなっていきました。
地域資源の掘り起こしから商品開発、販売までを自分自身で手掛けたいというのが、私の理想とする形です。
その働き方を実現するには個人事業主しかないと思い模索している時に、地域おこし協力隊の募集を見つけました。
地域おこし協力隊であればいろいろなことに挑戦することができ、また地域資源を生かした起業ができると思い、応募することを決めました。

篠田さん:私は長らく外食産業で働いていて、店長やエリアマネージャーを経て、社員教育などを担当していました。
土日出勤や出張があり、家族と過ごす時間が少ないことが悩みで、田舎で子どもたちの日々の成長を感じながら暮らしたいという思いが徐々に強くなり、地方へ移住することを決めました。
情報収集する中で、地域おこし協力隊という制度を知り、四万十町で外商に関する協力隊の募集があったことから応募しました。



それぞれの能力を活かし、スピード準備でお店をオープン!


写真:四万十町にある道の駅「あぐり窪川」。高知県西部エリアを訪れる観光客はもちろん、地元客も多い

四万十町には多くの特産品があるにも関わらず、まだまだ地域外の人には認知されていない現状を知った井上さんは、自分が感動した仁井田米をはじめとした四万十の食の魅力をたくさんの人に知ってほしい。ここに起業のヒントがあるのではないかと感じていました。
起業の構想を練りながら活動する中で、地域の人からかつて「おにぎり屋さん」が地域にあったことを教えてもらいます。
手軽に食べられるおにぎりなら、地域外から四万十町を訪れた人にも手に取ってもらいやすく、仁井田米を主役として四万十の食材を活かした商品開発ができるのではないかと考え始めました。
そして、井上さんの着任から9ヶ月後、四万十町に篠田さんがやってきました。「食」という共通の分野で活動をしていたことから、一緒に活動をする機会も多かった2人。
さまざまな話をする中で、自分たちのお店を持つ話が前に進み始めます。

篠田さん:外商担当として、まずは地域の人や食材を知ることから始めました。
その中で、店舗を作って、付加価値の高い商品を自分たちで販売していくことが必要ではないかという自分なりの結論に至りました。
そんな時、偶然「あぐり窪川」に空き店舗が出ていることを知りました。
井上さんの得意な商品開発と、私が経験してきた店舗経営の知識を合わせれば、四万十町の魅力が伝えられるお店ができるのではないか。これはやるしかない!と「青いしろくま」をオープンすることが決まりました。

井上さん:「青いしろくま」のオープンが2022年7月で、物件を契約したのがその1ヶ月前です。
すべての準備はそこから始まりました。篠田さんの経験と推進力がなければ、短期間でのオープンには至らなかったかもしれません。
スピード感を要するオープン準備でしたが、商品開発・店名・ロゴなどには一切の妥協はありません。
準備期間中はひたすら試作を繰り返し、自信を持って提供できる商品を完成させることができました。
篠田さんと役割分担をできたことは大きかったです。



写真:自分たちでDIYした外装



この場所を通して、四万十町のおいしい食と出会ってほしい

「青いしろくま」のおにぎりは、一個¥250〜と強気の価格設定です。
それでもお客さんが、こだわりのおにぎりを求めて連日訪れています。

井上さん:仁井田米の選定から、精米、浸水時間、炊き方など試作を繰り返し、ベストと思える状態で提供しています。
仁井田米の特徴である香ばしさと甘みを生かすために、海苔や塩はあえて使っていません。
具材には四万十ポーク、生姜、四万十鰻、塩麹など四万十町の食材を使っています。
「青いしろくま」でしか食べられないおにぎりを提供したいという思いから、一手間、ふた手間かけたオリジナリティのあるおにぎりを作っています。
県内はもちろん県外から来た方にも、この場所で四万十町の食材のおいしさに出会ってほしいと思っています。

篠田さん:コーヒーは四万十町にある「カワクボコーヒー196四万十店」で淹れ方などコーヒーに関することを教えてもらいました。
米はもちろんですが、コーヒー豆にもこだわりを持っています。
食材の良さが伝わる付加価値の高い商品を売っていきたいという信念を持って、商品開発をしています。

「青いしろくま」という店名は、サードウェーブコーヒーを想起する青色や四万十町の空の色、そしてお店の主役である仁井田米や井上さんの出身地である北海道を想起させる白色から「しろくま」を組み合わせ命名した。「青いしろくま」という少し違和感のある言葉を組み合わせることで、覚えてもらいやすい店名となっています。


写真:地元食材を活かしたおにぎり



小さく始めて、何度も繰り返す

四万十町に地域おこし協力隊として着任し、さまざまな支援制度があることを知ったというお二人。
県や市町村が開催するセミナーや研修を積極的に受けているとのこと。

篠田さん:移住する前には知らなかったですが、いざ起業に向けて動いてみると、セミナーや支援制度、ビジネスプランコンテストなどがたくさんあることに気づきました。
特に意識しているのは、セミナーを受講した後にそれで満足せず行動するということです。
お店を持たなくとも、イベントへの出店などでもいいと思います。
学んだことを活かしながら、商品開発→販売→修正を繰り返し、商品を磨き上げていくことが大切だと思います。

井上さん:KSPが主催する「起業アイデアブラッシュアップコース」や、四万十町の主催する「地域イノベーター養成講座」、そのほかにも参考になりそうなものは受講して吸収する時間を大切にしました。
篠田さんも言うように、まずはお金や時間をかけずに小さなアクションを起こし、何度も繰り返しながら模索することが成功への近道ではないかと思います。


写真:おにぎりは注文が入るごとに、一つ一つ手作りで

現在、井上さん、篠田さんとも地域おこし協力隊の任期2年目です。
今後は、「青いしろくま」の経営を続けながら、それぞれに新しい事業を始めることを検討しています。
地域の魅力を発見し、それをビジネスとして育てようと奮闘するお二人のこれからが楽しみです。


青いしろくま
住所:高知県高岡郡四万十町平串284-1
営業日:土日祝10:00〜15:30、月木金10:30〜14:30
最新情報はInstagram(@aoishirokuma_kawakubocoffee)をチェック



文責/長野 春子