〜一般社団法人ハンズオン 野崎浩平さん〜

現役教員がつくる、子どもも大人もフラットに集える場

高知市の私立中学・高等学校で教員として働きながら、一般社団法人を立ち上げ、子どもと大人がともに集える場づくりを行う野崎さんにインタビューしました。



起業の原風景となったのは、実験教室で子どもたちの主体的な学びをサポートしたこと



大学で教員養成課程を卒業し、母校で理科の講師として働き始めたことが、教員人生のスタートです。
その後、ベネッセコーポレーションで新規事業の部署に勤めていた友人からの誘いがあり、企業で教育に携わることにも興味があったので転職を決めました。
その新規事業というのは、小学生向けの実験教室でした。
そこでは、子どもたちの自発的な発想が取り入れられるような実習を設計し、イカやフナの解剖、木や鉄の燃焼といった様々な実験を提供していました。
保護者からは「偏差値にどんな影響がありますか?」「何の役に立ちますか?」といった質問を受けることもしばしば。
それでも、子どもたちが主体的に学んだ結果、実験を通して自信をつけ、自分が感じたことを記録・発表したり、嬉々として保護者の方に今日の実験の話をしたりしている姿を見ていたので、この経験は子どもたちにとって財産になると信じて取り組んでいました。

そんな頃、東日本大震災が起こります。
その時に目にしたのが、電車もバスも止まっているにもかかわらず駅に大行列をつくる人たち。
復旧する見込みも分からない中で、ただ並んで待つ大人たちの姿を見て、強い違和感を覚えました。
子どもたちには、自分で考えて、判断し、行動できる大人になってほしい。
自分の思考を大切にするという環境を育むことが、私にできることではないかと感じ始めました。



高知へ移住し、6年ぶりの教員復帰



その後、仕事は忙しくなり、体調を崩しながら働いていました。
妻の故郷である高知に家族で移住することの可能性を考え始めたのはその頃のこと。
とにかく都会から脱出する方法はないだろうかと、大手転職サイトで見つけた高知の事務職求人に応募して仕事を決め、家族で引っ越しました。
移住して生活していくなかで、理科の教員が不足していることを知り、約6年ぶりに学校現場に復帰することに。
いくつかの私立の学校で勤め、現在勤めている私立学校では、探求的な学びを実践するコースの立ち上げから関わり、理科の教科だけではなく、外部の方々に協力をいただきながら、子どもたちが学ぶ環境づくりに携わっています。

こうした学校での活動と並行して、学校外でも少しずつ活動の幅を広げました。
教育に関するイベントやICT勉強会、アメリカの教育現場を写したドキュメンタリー映画「Most Likely to Succeed」上映会などを企画し、教員はもちろん保護者、高校生や大学生とのつながりを考えた活動をしています。
ある時、「話を聞いてほしい」とイベントで出会った保護者から言われます。相談内容は子育てに関すること。
ちょっとしたことですが、その些細な悩みを相談できる人がいないという現実を知り、現役教員と学校の外側で話ができる場を設けることに。
最初は半信半疑でしたが、そこから週一回、自由に相談できる場を設けてみると、保護者や中高生・大学生などが訪れてくれるようになりました。
教育に関すること、不登校、進路など、相談内容はそれぞれです。教員という存在に相談したいというニーズがあることが分かった出来事でした。



教員と一般社団法人代表。二足の草鞋で教育に取り組む



このような活動を通して、子どもも大人も自由に利用でき、交われる場所を作ることができればと思い描いています。
当初は、個人の活動の範囲だけでと考えていましたが、様々な起業プログラムを受ける中で、一般社団法人の設立も一つの方法だということに思いが至りました。

起業については、経済産業省の「未来の教室」 実証事業であったアントレプレナーシップ式実践EBMA型の教員向け研修プログラム「Hero Makers」に参加したことが発端になっています。
そこで、私自身がプロジェクトオーナーとして行動し、学内外の関係者を巻き込みながら「既存の教育者像にとらわれないでいい」と気づきました。
そして、高知県の起業支援事業であるKSP(こうちスタートアップパーク)の「起業アドバンスコース」に参加し、法人を立ち上げるまでのプロセスを伴走していただき、今に至ります。

二つのプログラムで問われたことは共通しています。
「あなたが助けたいのは誰ですか?」「あなたはどういう人間ですか?」という自分の中をひたすら見ていく作業の繰り返しです。
幸い、すでに複数の保護者や学生から相談を受けていましたので、対象者像を明確に持つことができました。
その人たちに自分ができることを提供して、喜んでもらえる。それが事業として成り立つということが、自分の中で形になっていっているところです。
一般社団法人設立後の現在も、教員として教壇に立ちながら、週に一回は夕方以降の時間を誰でも相談できる時間に充てています。



子どもも大人もゆるっと集う、ノンアルコールな「ひろめ市場」

主な事業としてはKochi Startup BASEのスペースのレンタルと、そこで個別に行っている相談業務がベースです。
それに加えてコワーキングスペース・シェアオフィスの運営ができるよう現在の拠点から移転の準備をしています。

Kochi Startup BASEを、中高生や大学生には学校外の人と交流しながら学習する拠点として使ったり、自分の挑戦したい活動のための場所として、大人にはリモートワークの環境としての利用、企業には研修の場や企業間の人材交流の場所にしてもらいたいのです。

中高生や大学生は、働く大人と同じ空間を共有することで、自ずと気づきや刺激を受けます。学校や家庭だけでなく、社会と接する場所が、Kochi Startup BASEをきっかけに広めていきたいと考えています。
私たちが提供するKochi Startup BASEが子どもと大人たちの持つパワーに満たされ、お互いを分けずに交流できる、ノンアルコールな「ひろめ市場」のように活気あふれる空間になればいいなと思い活動を続ける日々です。



 

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文責/長野 春子