〜風とお菓子と 永森恵美さん〜

お菓子づくりが好き!幼い頃から変わらない情熱をお菓子にこめて

2021年、黒潮町佐賀の住宅街の一角にオープンしたお菓子屋さん「風とお菓子と」。
「お菓子づくりが好き」というまっすぐな気持ちを持ってお店を営む、永森さんにインタビューしました。


 

「わかったさん」との出会いから、お菓子づくりにどっぷりハマる



私がお菓子づくりを始めたのは、小学校低学年の時です。
家庭では、お祝い事や行事ごとがあると祖母が柏餅やおはぎなどの和菓子を作ってくれていて、徐々に手伝うようになっていました。どっぷりとハマったのは、童話「わかったさんのおかしシリーズ」との出会いからです。
物語の最後に取り上げたお菓子の作り方が載っていて、「私にもできるんじゃないか」と自分で作り始めました。
ですが、作ってみると上手にできないことの連続。どうしてだろう?もっとこうしてみたらどうか、道具はこんなものを使ったらどうかと工夫を重ねる中で、気づけばお菓子づくりの虜になっていました。

そこから、親とスーパーに買い物に行った時には製菓コーナーの前で、「この道具が欲しい」とお願いするようになりました。
同じ年頃の子は、お菓子コーナーなどで「これ欲しい」とお願いするところ、私はお菓子づくりの道具や材料が欲しくて欲しくて。変わった子どもだったと思います。



写真:お菓子作りを始めるきっかけとなった、童話「わかったさんのおかしシリーズ」。



仕事と子育てに奔走する毎日。お菓子づくりでストレス発散!

小学生の時に芽生えたお菓子づくりへの情熱は、学校を卒業し社会人になっても冷めることなく続きました。
しかし、仕事として選んだのは、医療事務です。大好きなお菓子づくりを仕事にしてしまうと、やりたいことができなくなるのではないかという思いから、もう一つ興味のあった医療の仕事に就くことになりました。
忙しい中でもお菓子づくりの時間は大切にしていて、仕事でのストレスを発散するかのように、夜中まで一心不乱にお菓子を作り続けることもありました。

その後、滋賀県へ移り、結婚・出産を経験することとなります。滋賀県は夫の実家のある町です。
1人目、2人目を出産し、3人目を妊娠したときに、ワンオペに近い育児や都会の子育て環境などに限界を感じ、故郷である黒潮町へ帰りたいと夫に相談しました。
そこから、夫の職場の方の協力などもあり、転職をせずに黒潮町で仕事を続けることが可能になり、家族での黒潮町への帰郷が実りました。その後4人目も生まれ、6人家族となりました。

子育てでバタバタな毎日の中でも、時間を見つけてはお菓子づくりをしていて、タルトを焼いたり、ドーナツを揚げたりしていました。この時にも、まだ自分のお店を持つことは想像していませんでした。






Instagramに投稿したケーキの写真から、口コミで人気に火がつく

2020年頃、母の誕生日に初めてショートケーキを作ってみることにしました。
生クリームを塗るのが自分の中での最難関。
YouTubeなどで念入りに予習を行い、ケーキの回転台やクリームを塗るためのパレットナイフなど道具を揃え、いざ作ってみると予想外の大成功だったのです。
やや不恰好な部分はありましたが、味は抜群。「これはいける!」と心の中でガッツポーズでした。

そこから子どもの誕生日などにはショートケーキを作って、写真をInstagramに載せていたところ、友人から「買いたい」と声をかけてもらうことがポツポツと出てきました。
当初はプレゼントしたり、材料費だけいただいたりしていましたが、段々と口コミで広がり注文が増えていきます。
というのも、私が暮らす黒潮町佐賀はケーキ屋さんがありません。
誕生日などには、隣の四万十市などのお店で買う人が多い現状を考えると、地域にはケーキ屋さんの需要があることは明白でした。
また、私自身、お菓子づくりでできることが徐々に増え、さまざまなリクエストにお応えできるようになっていましたが、それでもまだ自分でお店を営む自信がなく決心がつきませんでした。
考える時間が続きましたが、徐々に「やってみようかな」という気持ちへと変化し、2021年、「風とお菓子と」をオープンさせることになりました。
オープンに当たっては、高知県の創業補助金を活用しました。


写真:自宅敷地内に増築した店舗は、大工をしている永森さんの父親が施したもの。




「おいしい!」と言ってもらえるお菓子を探求する

「風とお菓子と」はテイクアウト専門のお店です。
お店がオープンするのは現在だいたい月2回ほど、土曜日にお店を開けています。
そのほかの日にはオーダーケーキをお作りしています。
少ない営業日ですが、地元はもちろん遠方から当店を目指してきてくれるお客様がいることがとても嬉しいです。

1人で作っているため、営業日の前日夜からオープン直前まで準備に追われています。
体力的に大変だなと思う反面、ケーキを作りたくて仕方ない気持ちが抑えられず、ついつい作りすぎてしまうこともしばしば。
次はこんなケーキを作りたい!こんな味はどうだろう、と自分でも止められないほどです。
そう考えると、お菓子づくりが好きだからこそ違う仕事に就こう、作りたいお菓子が作れなくなるかもしれないという昔の自分がしていた心配は杞憂だったのだなと思います。

お店に来てくれるお客さんはInstagramを通じて、当店のことを知ってくれた方が多いですが、嬉しいことに地元の方にも足を運んでもらっていて、先日は90歳のおばあちゃんが買い物に来てくれ、「ここのケーキは食べられる」と言ってくれました。
そのほか、普段は生クリームのケーキを食べない男性や子どもが、「ペロリと食べた」などの嬉しい声をいただいています。

とはいえ、まだまだ地元では知られていないのが現状です。まずは地元の人に知ってもらって、長く愛されるお店にしていきたいです。
また、今後は地域の規格外フルーツを活用することで、フードロスにつなげたり、地域の方が気軽に立ち寄ってくれる場所を目指したりと、さまざまな形で地域にも貢献していきたいです。

写真:シフォン生地を使った「いちごのロールケーキ」。ロールケーキのために作るこだわり配合の生クリームと、フワフワしっとりのスポンジ、甘酸っぱい黒潮町産いちごの相性は抜群。



風とお菓子と
住所:黒潮町佐賀2417-18
Instagram:@kazeto_okashito_で検索


 

文責/長野春子




~補助金担当からのあとがき~
永森さんは令和3年度高知県創業支援事業費補助金に採択され、「風とお菓子と」の開店準備を進められました。
地域の食材を地域で活かす地産地消や規格外フルーツを活用し食品ロスにつなげるコンセプトを掲げられ、自身が地域で事業をすることで地域コミュニティの維持・活性化につなげる地域密着型の事業内容が評価されました。
今回、取材に同席させていただくなかで、終始楽しそうにお話をされる永森さんの姿が非常に印象的で、きっとその笑顔がお客さまにも伝わり、さらにそのお客さまのご家庭に伝わることで、最終的には地域全体に伝播していくのだろうと感じました。
小さな街のお菓子屋が紡ぐストーリー、今後も目が離せません!

高知県産学官民連携課 山本晃平