〜よさ来いワイナリー 窪内靖治さん

〜生食用ぶどうで作る自然派ワイン!

 

2021年に誕生した「よさ来いワイナリー」。
窪内さんが、なぜワイン作りに取り組むことになったのか。
インタビューする中で、ユニークな経歴の中で培われた揺るぎない想いが見えてきました。



「プロスポーツが地域を元気にする」名古屋で目にした圧倒的景色


高知市で生まれ育ち、大学進学をきっかけに愛知県名古屋市に移りました。
大学生の時、有名なサッカー選手であるストイコビッチ選手を一度見てみたいと、名古屋グランパスのホームゲームを見に行った経験が、その後の私の人生に大きな影響を与えました。

スタジアムで目にしたのは、観客のほとんどが『名古屋グランパス』というチームを全力で応援している光景でした。
一体感溢れる、熱気に包まれた空間に圧倒され、サッカーというスポーツが持つ地域ブランド力を認識しました。
チームの勝利をともに喜び、敗北をともに悔しがれることが、こんなに楽しいことだったなんて。
その経験から、地元である高知にもプロスポーツチームがあればいいなと考えるようになりました。

その後大学院まで進み、就職したのはIT関連の会社でした。
ITコンサルタントとして、全体の設計やお客様との調整などの業務を担当していました。
忙しい中でも、スポーツに関する興味は冷めず、仕事をしながらスポーツビジネスをアカデミーで学び、卒業後はボランティアで運営のサポートをするなどしていました。

そして2010年、知り合いを通して秋田県のサッカーチームである「ブラウブリッツ秋田」の運営スタッフをしてみないかという話があり、勤めていた会社を辞め、東北・秋田へ。
そこで約2年半を過ごし、チーム運営の難しさも楽しさも学びました。

そして2012年、高知へ帰ってきます。
そこから高知のサッカーチームを作るために奔走し、「南国高知FC」から「アイゴッソ高知」、その後「高知UトラスターFC」と統合し、現在の「高知ユナイテッドSC」を形づくりました。
スポーツが、高知の地域ブランドの向上に大きく影響する。
名古屋での原体験、そして秋田で揉まれた自分が培ってきた経験を地元高知で還元するべく、活動していました。




運命的な出会いから、ワイナリーの夢が現実に

転機となったのは2017年。先輩からの依頼で、IT企業の社長に就任し東京で働くこととなります。
家族を高知に残して単身赴任で東京へ行くことにしたので、期限を2年間と決めての決断でした。
せっかく東京で暮らすのだから、休みの日を使って何か学びたい。そう思って、通い始めたのが長野県で開催していたワインアカデミーです。
老後に自分でワインを作って楽しめればいいなと軽い気持ちで始めましたが、1年間勉強してみると、とても老後にできるものではないことが分かりました。
ワイン作りには、気力・体力ともに必要です。「始めるなら1日でも早い方がいい」と、高知へ帰ってからはすぐに畑探しを始めました。

そして2020年末に出会ったのが、現在管理する9反(9,000㎡、2700坪)のぶどう畑です。
直近まで観光農園が管理していたこの畑では、大きく分けて3種類の生食用ぶどうが栽培されていました。
翌年の収穫を考えると、話が舞い込んできた翌月の1月から剪定をスタートさせなければならないという、切羽詰まった状況。
ただこの広大なぶどう畑が高知で見つかることはなかなかなく、「これは運命」と、すぐさま借りることを決意しました。

私の当初の計画では、耕作放棄地を借りて、高知に合う品種はどれかなと苗木から栽培しながらゆっくりとスタートを切る予定でした。
それが、いきなりトップスピードでのスタート。その際に、高知県創業支援事業費補助金を活用しました。
こうして「よさ来いワイナリー」の1期目が始まりました。


写真:生食用の大粒ぶどうをワインへ加工する


写真:「よさ来いワイナリー」のぶどう畑では化学肥料不使用、農薬も必要最小限にしている。



怒涛の展開から、試行錯誤のワインづくりがスタート

ぶどう畑は、管理されていたとはいえ老朽化している部分もあり、最初は整えるのに時間がかかりました。
アカデミーで学んでいたので、新規設立時はどう対応するかということはおおよそ理解していたのですが、実際は大違い。
畑の支柱を直すことすらできなくて、知り合いのぶどう農家さんに教えてもらいながら作業を覚えていきました。

無事に収穫を迎え、はじめての自分のワインができたのは2021年11月です。
クラウドファンディングにも挑戦していたので、その方々への返礼品としてお送りしました。
醸造については、中四国にある複数の醸造所へ委託し、野生酵母を使用したり、酸化防止剤をできる限り減らしたり、無濾過で瓶詰めを行うなど自然派と言われるワインを作っています。

よさ来いワイナリーのワインは例えるならば、「おすまし」的なワイン。
シチューのような濃さはないけれど、ぶどうの旨味をしっかりと感じるワインです。
料理の邪魔をせず、フレンチや洋食はもちろん和食にも合わせていただいても美味しく飲んでいただけると思います。



写真:ワイン業界で活躍する女性が審査を行う「サクラアワード2023」でシルバーを受賞した「2022藤稔」


写真:醸造所を持たない「よさ来いワイナリー」は、信頼できる醸造所に委託し、ワインが完成する。


 

2023年、「よさ来いワイナリー」はヴィンヤードからワイナリーへ

「よさ来いワイナリー」は自社で醸造所を持っていません。「ワイナリー」とは醸造所のことを指すので、厳密にはぶどう畑を指す「ヴィンヤード」なのです。
そして2023年、夢であったワイナリーとして自分たちの醸造所を持つべく、現在準備を進めています。
醸造所ができることで、よりチャレンジの幅が広がると思っています。
例えば醸造に関して言えば、少量ずつ作り方を変えて仕上がりの違いを確認するなど、自家醸造だからできる試験的な取組が可能です。
またワインに関わる人口を増やすための取り組みも始めたいと考えています。
具体的には、ワインアカデミーの開催です。
四国エリアでワイン造りをしている人たちの協力を得て、ワインを作りたい、興味がある人に学んでもらうというものです。
この活動を通して、ワイン醸造所が四国や高知にもっと増えてほしいと思っています。

私が目指しているのは、「よさ来いワイナリー」が一人で売上を伸ばすことではなく、高知という地域がワインで盛り上がることです。
根本にあるのは、スポーツに関わっていた頃と同じで、高知の地域ブランド向上です。
高知で暮らす人が、地域で作られたワインを楽しみ、地域外からもそれを目指して観光客が訪れる。
ワイナリーが増えることによってワインツーリズムが可能となり、高知という土地がより魅力的なものになると信じています。
そのために、これからも「よさ来いワイナリー」としてできることにはすべて取り組んでいきたいという思いです。

 

 

よさ来いワイナリー
住所:高知市百石町1-10-20
TEL:080-4034-8462
https://yosakoi-winery.com




文責/長野 春子


 

~補助金担当からのあとがき~
窪内さんは令和3年度の高知県創業支援事業費補助金を活用され、「よさ来いワイナリー」を開業されました。
補助金の審査では、インタビューにもあるように、地域を巻き込んで描くワインアカデミーやワインツーリズムの構想が、斬新でありながらもぜひ実現してほしいという期待する部分の評価も大きかったことを記憶しています。
事業開始後、順調に事業を進められている窪内さん。
ヴィンヤードからワイナリーへ、自家醸造を果たしたその時の、新たな「よさ来いワイナリー」に期待せずにはいられません。

高知県産学官民連携課 山本 晃平