〜Atelier ironoie 川村愛さん〜

子どもたちが自由に表現できる第三の居場所づくり

 

高知市福井で子どもたちの放課後絵画造形教室「Atelier ironoie アトリエ 色の家」(以下、色の家)を営む川村愛さん。
子ども向けの教室を始めたきっかけや目的、そして今後の展望を伺いました。



 

日本美術・ランドスケープを学び、高知へUターン


写真:川村愛さん。肩にのっているのは愛鳥のオカメインコ「ゆずちゃん」。

高校卒業後、日本美術の勉強がしたいと京都にある美術大学に進学しました。
そこで日本画を学び、さらにデザイン分野への興味が湧いたことから別の美術大学へ編入し、ランドスケープデザインを学びました。
座学はもちろんですが、京都の歴史ある日本庭園の剪定をしたり、非公開のお庭を見学させていただいたりと、貴重な経験をすることができました。
そうして7年間を京都で過ごし、その後「東大阪市民美術センター」に非常勤講師として勤めることになり、センターへのアクセスの良い奈良県へと引っ越しました。

それから4年後の2011年、センターを辞め、拠点を東京へ移そうと決意しました。
しかし、東京の物件を内見しようと予定していた3月に東日本大震災が発生します。
内見どころではなくなってしまい、東京への引っ越しは白紙に。
とはいえ、退職と当時住んでいた奈良県の物件は引き払うことが決定していました。悩んだ結果、2011年5月に高知に帰ってきました。

地元であるいの町へ帰ってきてからは、子どもたちと接する仕事がしたいと思い、放課後児童クラブで働き始めました。
その間、個展をしたり、海外のアートフェアに参加したりと、自分の絵画の制作活動も並行して行っていました。



運命的な出会いから、教室の物件が決まる

子どもたちの絵画造形教室を始めたのは、2017年です。
最初は貸しスペースを利用した単発イベントとして開催し、そこから不定期開催、月一回という風に「色の家」が始まっていきました。

2019年から高知小学校の図工専科講師として勤め始め、そこで高知小学校のある福井エリアの子どもたちの置かれている状況を知りました。
福井エリアは、児童数は多いものの地域に小学校がなく、旭小学校や旭東小学校など少し離れた場所まで通わなければならないこと。
私立の高知小学校に通う子どもたちは、色々な地域から学校に通っていて、放課後に集まれる場所がないことなど。
こうした状況を知り、子どもたちの居場所を作るために、この場所に教室を作ろうと決めました。

しかし、絵画造形教室を開ける物件を探すのは至難の業です。
まずは教室として営業することを許可してくれる大家さんであること、画材で汚れてしまうこと、ある程度の広さが必要なことなど、条件に合う物件になかなか出会えず、一度は物件探しを挫折してしまいました。
構想はあるものの、なかなか実現できずに時間が流れていました。

そして2021年の春、フラッと入った不動産屋さんで現在の物件との運命的な出会いを果たします。
立ち寄った日は、不動産屋さんにこの物件の情報が入った日のなんと翌日。まだ賃料も決まっていない、入りたてホヤホヤ状態のこの物件の情報を聞き、この家に呼ばれているような気がしました。
その日のうちに実際に家を見てみると、アトリエを始めるイメージが湧き、これも巡り合わせと直感で決めました。

その後、とんとん拍子で話は進み、2021年夏に契約。その後、自分で少しずつリフォームをして、2022年2月に「色の家」が常設の教室としてスタートしました。
スタートするための準備資金については、高知県の創業支援事業費補助金を活用させていただきました。



本気で自由な環境を作らなければ、子どもたちは「自由」な選択はできない

教室では、基本的に水・木・金曜日のそれぞれ決まった曜日に子どもたちが通っていて、思い思いに創作活動をしています。
「色の家」では、自由に、自分がしたい表現をしてほしいと思っているので、「やりたくない」「気分がのらない」という時には本を読んで過ごしても良いということにしています。
創作したいという意志はもちろん、創作しないという意志も受け入れたいと思っています。

大切にしているのは「子どもたちの居場所でありたい」という思いです。
決まった課題は与えず、絵が描きたい、工作したいというそれぞれのやりたいという気持ちを尊重しています。
迷ってしまう子には「おすすめ」として、創作物やテーマを準備していますが、今通っている子どもたちは自分たちで見つけることが多いですね。

ここで特に意識しているのが「自由に選択できる環境」を意識的に作ってあげるということです。
危険な場合を除いて、基本的には選択をすべて肯定。なので、子どもたちはやってみて失敗することもありますし、仲間とぶつかってしまうこともあります。
教室の中には喜怒哀楽が溢れてOK。それらを受け止める役割が私なのかなと思っています。
子どもたちの本当に自由な選択が生まれるよう、こちらも本気で環境づくりを行っています。


写真:ガラスは、子どもたちのクレヨン画で彩られている


写真:取材時、生徒の1人がリクエストに応えて即興でイラストを描いてくれた



「おかえり」「ただいま」家でも、学校でもない第三の居場所

教室では「おかえり」と子どもたちを迎えていて、子どもたちは「ただいま」と返してくれます。
「色の家」ではおやつも準備していて、小腹を満たして、各々が自由な時間を過ごしています。
おじいちゃん・おばあちゃん家に来たような、心安らげる場所でありたいですね。

今後は、じっくりと制作に取り組みたい子向けに、集中して制作を深められる土曜日オープンを設けたいですし、お庭づくりをしたいなど展望は広がっています。
お庭で育てた野菜を使ってみんなでカレーを作ったり、ピザを焼いたり。絵と工作だけではなく、全ての体験がつながっている場所になっていければと思っています。

ルーツも年齢も異なる子どもたちが集う「色の家」。
いつか大人になった時、この場所で触れた色々な選択肢や生き方を思い出してもらえたら嬉しいです。



写真:この日のおやつは大家さんからいただいた干し芋。ストーブで焼くその後ろでは、おやつを食べるためのテーブルクロスの製作が進められている。


写真:世界に一つのカラフルなテーブルクロスが完成。テーブルを囲んでおやつタイム。




Atelier ironoie アトリエ 色の家

https://atelier-ironoie.blogspot.com

 

文責/長野 春子


 

~補助金担当からのあとがき~
川村さんは令和3年度の高知県創業支援事業費補助金を活用され、「Atelier ironoie アトリエ 色の家」をオープンされました。
子どもたちが集い、自ら考えて行動し、新しい価値観を想像できるよう自ら未来を切り開き、活きる力を育むことを理念として、芸術を通した教育や人格形成を目指す事業内容に高い評価が集まりました。
補助金の相談時から、おっとり和やかな印象のあった川村さん。
子どもたちが安心して気兼ねなく集えるのは、そういった川村さんの魅力に惹かれる部分もあるのだろうと感じております。
子どもたちによって彩られる「色の家」、明日はどんな色で輝くのでしょうか。

高知県産学官民連携課 山本 晃平