〜ヘアサロン「paani(パアニ)」 首藤愛さん〜

美容師として、地域で暮らす一人として、そして地球に暮らす一人としてできること

いの町を流れる仁淀川沿い。自然に囲まれた古い住宅の一角に小さなヘアサロン「paani(パアニ)」はあります。

高知に移住し、この場所にヘアサロンをオープンさせた首藤さん。

ヘアサロンだけにとどまらず、今後も進化し続けるであろう「paani」の現在地点をご紹介します。

 

オーストラリアで多様な働き方に出会い、仕事観が変わる



- 高知へ移住したきっかけや経緯を教えてください。
 

神奈川県で生まれ育ち、学校卒業後は美容師として仕事をしていました。転機となったのは28歳の時、ワーキングホリデーでオーストラリアへ渡ったことです。自然豊かな環境の中で暮らしながら、美容関係とカフェという二つの仕事をしていました。この経験によって「仕事は一つじゃなくてもいいんだ」という気づきを得ました。日本に帰国後は、神奈川県で美容師をしながらカフェで働いていましたが、もっと自然が多いところで暮らしたいと移住を考えるようになりました。

最初に移住先の候補に挙げていたのは宮崎や沖縄、種子島などです。そうした場所を旅行で訪れ、「住みたいと思うか」という視点で色々な場所を見ていました。そんな時、当時働いていたカフェで高知県いの町の「刈谷農園」の生姜を扱っていたことから、オーナーから「高知へ行ってみたら?紹介するよ。」と言われ、移住候補地として高知が急浮上してきました。

そして、2019年12月に初めて高知を訪問。サーフィンが趣味ということもあり、最初は海に面している市町村を見て周り、滞在3日目にして初めていの町にある刈谷農園を訪れました。そこで刈谷さんから「いの町に移住するんだったら、色々とお世話するよ」と心強い言葉をいただけたのは大きかったです。


翌月に高知を再訪すると、刈谷さんが地域の移住者などを呼んで新年会を開催してくださり、2回目の高知訪問にしてたくさんの人と出会うことができました。高知の自然、お世話を焼いてくる優しい人との出会いなどがあり、「ここに住みたい」と思うようになりました。そして、そこから5ヶ月後の2020年6月に高知へ移住してきました。




まずは移住し、時間をかけて物件探し



- 高知へ移住して、起業まではどのように準備を進めましたか?

 

高知へ移住後は、オーストラリアで一緒に仕事をしていた友達と一緒に、刈谷農園さんの敷地の一部を借りてカフェをオープンしました。自分で美容室をオープンすることも決めていたのですが、場所探しも含めて準備期間が必要でした。
美容室の開業に向けて、まず取り掛かったのは物件探しです。色々な市町村の「空き家バンク」をチェックし、物件を探す中で、いの町の空き家バンクを通して、現在住んでいる物件に出会いました。

いの町の中心部から仁淀川沿いに上流へ上っていった勝賀瀬という場所にあるのですが、上流まで行き過ぎず、また町にも寄り過ぎず、自然が豊かな場所に建つ物件です。
一人暮らしには広すぎることがネックだったのですが、物置として使っていた建物を美容室の店舗に改装していいと大家さんから快諾いただき、とんとん拍子で進んでいきました。


美容室のオープンに向けて準備を進めていく中で、開業資金に関する情報収集を始めます。周りの先輩移住者などに聞いたり、商工会に相談したりする中で、「高知県創業支援事業費補助金」という地域課題解決につながる起業を支援する補助金があることを知りました。


いの町のこの場所で事業を始める上で大事にしたかったのは、地域に溶け込み、地域の方々との交流が深められる拠点となるということです。
そのため、高齢やハンディキャップなど様々な理由から美容室へ行くことができない方向けの「訪問カット」サービスや大自然の中で開放的にカットする「青空美容室」などのイベントの実施。また、環境への負荷の低いシャンプー等資材の利用などを検討していました。このような地域とともに歩む事業プランが、補助金の「地域の社会課題を解決するための起業を支援する」という性質に合致していると思い申請をした結果、採択していただくことができました。


と…ここまではよかったのですが、このような補助金を使うのは初めてのことだったので、書類の作成や開店準備など慣れない作業にてんやわんや。アクシデントなどもありながら、無事2021年2月にヘアサロン「paani」をプレオープン、5月に正式オープンさせることができました。



焦らず、じっくり、自分らしくお客さまと繋がる


- オープン後は、どのようにお客様を確保していきましたか?

初年度の売上は厳しいものがありましたが、2年目以降はお店を知ってくれている方やお客さんが徐々に増えてきています。想定通りに進まない、売上が上がらないと焦るのではなく、一人一人のお客さんを大切にし、共通の感性を持つお客さんとの繋がりが緩やかに広がっていくようなお店にしたいなと思っています。例えば、お店で取り扱っているのはナチュラルな成分で作られたシャンプーなのですが、そうしたプロダクトが好きな方であったり、アロマが好きな方であったり、私が大切にしたいと思っている部分を知って「いいな」と思ってもらえたら嬉しいと思っています。



- いの町での、日々の暮らしはいかがですか?

現在、お店は完全予約制です。そのため、お店が休みの日や予約の入っていない隙間時間を見つけては、さっとサーフボードを車に積み込み海に向かっています。
高知は自然との距離が近く、日々浄化されているような感覚です。高知を選んで、いの町を選んでよかったです。


 

ヘアサロンだけじゃない。「paani」の拡がる可能性



 

- 今後、挑戦したいことはありますか?

イベントに出店して青空カットをするなど、お店を知ってもらう機会を今まで以上に作っていけたらと考えています。また、母屋のスペースを活用した陶芸などのワークショップの開催や、プラスチックごみの削減に向けて、シャンプーなどのプロダクトを自分たちで開発したシャンプーバー(石鹸)へ置き換えていく事業プランを温めているところです。

サーフィンをきっかけに、環境に配慮した暮らし方、働き方がしたいという思いが強まっています。自分の思いや願いとリンクした事業を生み出すこと。これからも自分の気持ちに正直に、やりたいことにチャレンジし、可能性を広げていきたいと考えています。

 


文責/長野春子

 

paani

住所:高知県吾川郡いの町勝賀瀬416-1

※ヘアサロンは完全予約制です

Instagram:paani_nature