〜わらび餅 うさぎ堂 門田早緒理さん〜

一度途絶えた佐川町の名産品「山椒餅」を復活させる

2023年に放送されたNHK連続テレビ小説「らんまん」。このドラマの主人公のモデルとなった植物学者の牧野富太郎が生まれ育ったのは、高知県中西部に位置し、仁淀川が流れる佐川町です。この町で、一度途絶えた幻の名産品「山椒餅」を復活させた門田さん。起業に至った経緯やプロセス、現在の課題など、ありのままを伺いました。

 

正直すぎる娘の一言が背中を押して、起業を決意


 

- 起業に至った経緯を教えてください。
独身時代から結婚・出産までの間は、いろいろな仕事を経験したいという思いからパン屋や花屋、エステなど様々な仕事に従事しました。娘を出産した後は、子育て中心の生活を送っていましたが、幼稚園に入ったタイミングで仕事を再開し、飲食店での勤務を経て、佐川町の観光協会で働き始めました。観光協会では、「旧浜口家住宅」を利用したカフェのスタッフとして働いていました。この「旧浜口家住宅」は、江戸中期に佐川町で酒造業を営んでいた歴史ある日本家屋で、提供するスイーツも和風のものを、ということで「わらび餅」の商品開発を任されました。最初はカチカチのわらび餅でしたが、試行錯誤し、トロッと柔らかいわらび餅を作れるようになりました。
そして、上手く作れるようになった頃から、漠然と自分のお店を持ちたいという思いを持ち始めました。しかし、「もう少し先かな」「娘が成人した頃かな」となんとなく遠い将来のこととして考えていました。そんな時、当時小学校4年生だった娘から「ママの残りの人生はもうちょっとやね」衝撃的な一言を言われます。それまで娘には、ずっと実年齢を教えておらず「ママは二十歳で」などと冗談を言っていたのですが、どこからか聞いて私の実年齢を知ったようです。
子どもからしたら、40代という私の年齢がすごく年上に感じたのだと思います。その一言がグサッと刺さり、体の動く元気なうちに起業しなければという思いになりました。
観光協会の仕事も楽しかったのですが、「このまま続けていては夢を実現できない」と、2023年3月に観光協会を退職。そして、たまたまテレビで高知県の起業支援の補助金(高知県創業支援事業費補助金)のお知らせを見て、「こうちスタートアップパーク(以下、KSP)」へ電話で問い合わせ、起業に向けて動き出しました。

 


 

一度途絶えた佐川の名産品「山椒餅」を復活させる

- 門田さんのお店「うさぎ堂」の看板商品を教えてください。
お店の柱となる商品は、「わらび餅」と、佐川町の幻の名産品「山椒餅」の二つです。
わらび餅は観光協会の時に作り、老若男女に親しまれるスイーツとして自信を持っていましたので、看板商品として据えました。そして、もう一つは「山椒もち」です。これは、2020年頃に一度生産が途絶えていた幻の佐川の名産品です。昔は数軒の生産者が町内にいて、それぞれの味にファンがついていましたが、近年では生産者グループ「佐川くろがねの会」が唯一の生産者となっていました。そのグループもメンバーの高齢化などを理由に、生産を引退するということになり、私のところに生産現場を見にこないかと連絡がありました。そこで作り方を継承し、現在は私が唯一の「山椒もち」の作り手となっています。
ただ、ひと口に「山椒もち」と言っても生産者によって味や風味が異なっていたため、この味が正解ということはなく、配合が定まるまでは手探り状態。最終的には、誰もが食べやすく、なおかつ山椒の風味を感じられるギリギリの配合を目指し、私の「山椒もち」が完成しました。

 


写真:看板商品の「わらび餅」と「山椒餅」

 

佐川町の名所“牧野公園”で開業へ

- 開店に向けての準備はどのように進められましたか。
当初は、佐川町の中心部で物件を探しました。しかし、家賃や修繕、駐車場など条件に合う物件が見つかりませんでした。時間をかけてじっくり探すしかないかと半ば諦めかけていた時に、現在入居している牧野公園の物件と出会いました。
牧野公園は、牧野富太郎博士から寄贈されたソメイヨシノが植えられた公園です。そこにある茶屋は、春の花見のシーズンだけ出店者を募集していました。その茶屋が常設の店舗に変わるということで、これだと思い申し込みました。折しも、朝ドラ効果で牧野公園へ訪れるお客さんが増えていたタイミング。すぐさま応募し、選考の結果採択いただくことができました。
想定外だったのは、選考から決定までに日数がかかり、2023年夏頃を予定していたオープンが10月になってしまったことです。連続テレビ小説「らんまん」の放送中に店舗をオープンさせて、牧野公園を訪れる多くの観光客に来てもらいたかったのですが、そこはタイミングが少しずれてしまいましたね。




写真:牧野公園花見棟にある「わらび餅うさぎ堂」

 

すべての商品が門田さんの手作り。だからこそ工夫が必要。

- KSPではどのようなことを相談されましたか?
起業については分からないことだらけだったので、「起業したいのですが、どうしたらいいですか?」というところからのスタートだったのですが、補助金を活用したかったので、KSPのアドバイザーとのメンタリングを積極的に利用しました。私が作成する補助金申請書を根気強く指導して下さり、また痛いところを指摘していただき、相談してよかったと思っています。次は、現在の悩みを相談しに行きたいと思っています。

 

 

- 現在の悩みというと、どのようなことでしょうか。
現在、公園内の店舗だけでなく、地元の道の駅でも販売させてもらっているのですが、午前中は越知町の加工場で商品を製造し、その後道の駅などに配達、そして12時頃には牧野公園のお店をオープンさせ、夕方まで営業するという業務内容をすべて一人で行っています。作ることに精一杯で、オープンから今までメニューの精査ができていない状況です。また、佐川町のお茶や和紅茶を使ったメニュー開発をしたいという思いがありますが、そうしたことにもなかなか手がつけられません。
イベントなどに出店する際には、作れる限りたくさんの量を持って行きますが、すべて手作りのため十分な数量が準備できているとは言えません。せっかく楽しみにしてくれていたお客様に「売り切れました」というのが申し訳なくて。今後は、不要なメニューを減らし、魅力あるメニューを安定して提供できるよう工夫していく必要性を感じています。




写真:店内の様子。窓からは佐川町の風景が楽しめる。


まずは一年目を大切に、丁寧に

- 今後の展望を教えてください。
お店のオープン以来、牧野公園を訪れるお客様からは「ゆっくりできる場所ができてよかった」といった嬉しい声をいただいています。先述した通り、すべて私が手作業で行っているが故の課題も見えてきていますが、まずはこの場所で一年間を経験することですね。その中で、新しいチャレンジと工夫をし、その先のことを考えていきたいと思っています。


 

 

わらび餅 うさぎ堂

住所:高知県高岡郡佐川町甲2458 牧野公園花見棟

電話:050-3639-1091

Instagram:@warabiusagimoti

定休日:不定休※「牧野公園さくらまつり」イベント期間中は無休



文責/長野春子