~株式会社あなたと 山下博正さん~

ご自宅での生活を支え、人と人がつながる訪問看護ステーション

 

リハビリテーションの専門職である言語聴覚士として17年のキャリアを持つ山下さん。言語聴覚士としてのキャリアを積み、関西圏から高知へUターン。ふるさと高知で「株式会社あなたと」を設立し、ご自宅での生活を支える「ひろ訪問看護ステーション」を開始しました。

 

言語聴覚士として、関西でキャリアを積む

 

-山下さんが言語聴覚士を志したきっかけを教えてください。

 

まず「言語聴覚士」とは、聞く・読む・話す・書くといった言葉に関するコミュニケーションに問題を抱える方や、食べる・飲み込むといった機能に問題を抱える方にリハビリを行う、専門職を指します。

 

高校在学中、卒業後の進路に迷っていたときに、姉から言語聴覚士のことを教えてもらいました。その当時、姉は言語聴覚士の資格を取得するため、学校に通っていました。言語聴覚士の魅力を知った私は、姉の背中を追いかけ、姉と同じ学校への進学を決めました。

 

学校在学中は、言語聴覚士の国家資格の取得に向け、勉強と研修に励みました。研修では大阪府や広島県へ伺い、様々な経験を積むことができました。就職に際しては、言語聴覚士としてのキャリアアップのための環境にこだわり、結果として、当時言語聴覚士界隈では有名な医療法人に内定をいただくことができ、そこから関西での武者修行が始まりました。

 

-卒業後は、言語聴覚士としてどのような経験をされましたか。

 

スタートは、ベッド数が225床の総合病院での勤務でした。そこでは主に、脳血管障がいや神経難病の方のリハビリテーションに携わっていました。在職中、様々な経験(臨床や学会発表など)を積ませていただく中で、脳神経の分野に興味を抱き、救急の脳神経病院に拠点を移すことを決断しました。そちらでは、脳血管障がいなどを発症し、救急車で運ばれてくる方や手術前後の言葉や食べることの評価・訓練を任されており、慌ただしい毎日でした。

 

ただ、そのような病院勤務が主だった私の中で、ふと思うことがありました。患者様の中には、後遺症を抱えたまま退院やご自宅に戻られるケースが少なくありません。そこで、在宅での生活に特化したリハビリテーションを学びたいと思い、再び拠点を移すことを決断しました。それが、今現在に繋がる事業、訪問看護ステーションとの出会いでした。

 

両親の「高知へ帰ってきてほしい」という想いが詰まった求人情報

 

-訪問看護の仕事に魅了され、関西で充実した生活を送っていたところから、なぜ高知へ帰って来ることになったのでしょう。

 

20代の頃から、高知で起業をすることが夢でした。学生時代に県外に出たいと両親に相談したところ、両親から「高知にいてほしい」と言われましたが、反対を押し切って県外に出ました。それでも折に触れて、両親から高知の求人情報が送られてきており、「いつかは高知で」という考えてを持っていました。

また、仕事柄お年寄りの方と接する機会が多かった私は、患者様から「ご両親は、いつまでもあなたに戻ってきてほしいと思っているよ」とたくさんのお言葉をいただきました。

 

私自身も年を重ね、家庭を持ち、親の介護を考えることが多くなり、高知へ帰ることを決意しました。そう決意したのは、2021年。私が36歳の頃です。

 

それから、高知の在宅医療について市場調査を始めました。「こうちスタートアップパーク(以下、KSP)」のことを知ったのも、ちょうどこの時期です。

 

 

高知に帰るなら起業一択!仕事をしながら起業に向けた準備を行う

 

-市場調査の結果をどのように事業計画に反映させましたか。

 

市場調査を開始したところ、高知は人口の割合に比べて訪問看護ステーションの数が充実していることを知りました。一方で、私の専門分野である言語聴覚士の数が不足していることも分かりました。その時に、事業の可能性を感じ、地域貢献ができると確信しました。また、私は高齢者のリハビリテーション以外に、未就学のお子さんの言葉や学習の発達を支援する「療育」も行っています。その点も、事業設計のポイントです。

 

日々の訪問業務の傍ら、KSPの専門家の方々からは客観的な視点から起業に対するアドバイスをいただき、今日まで準備を進めてきました。高知と関西という離れた場所からのご支援でしたが、KSPの方々には、親身になってご対応いただきました。起業について無知であった私をこれまで導いてくださり、大変感謝しております。お陰様で、納得のいく事業計画を完成させることができたと思っています。

 

-高知へ帰ってきてからは、どのように起業の準備を進めていきましたか。

 

2022年9月末で関西の訪問看護ステーションを退職し、10月に高知へ引っ越し、11月に「株式会社あなたと」を設立しました。訪問看護サービスを提供するためには、様々な基準を満たす必要があります。その一つが、常勤の看護師を雇わなければならないことです。この要件を満たすため、県外で働いていた小学校からの友人に声をかけたり、知人に紹介いただいたりしました。そして、無事メンバーが集まり、私を含めた4名で「ひろ訪問看護ステーション」がスタートしました。

 

 

-起業後、利用者の確保に向けてどのように取り組まれましたか。

 

訪問看護ステーションの開設が許可されるまでには2ヶ月ほどかかるため、この期間は県内のケアワーカーさんなどに営業をしていきました。全くゼロからのスタートだったので、スタッフはさぞ不安だったとは思いますが、私には「きっと大丈夫」という根拠のない自信がありました。もともとプラス思考で、人間やれば出来ないことはないという考えが根底にあります。また、自分一人では出来ないことでも、集まってくれた信頼できるスタッフの力を持ってすれば、絶対にうまくいくという確信がありました。

 

そして、無事に許可がおり「ひろ看護ステーション」を開設。事業を開始してからは、最初の月は利用者1名から始まり、そこから1名増え、また1名と、徐々に増えていきました。現在は1期目が終わり、2期目がスタートしたところです。1期目は概ね事業計画通りに進めることができており、2期目はさらに成長するために進化が必要だと考えています。

 

幸せが連鎖し、広がっていく会社でありたい

 

-「株式会社あなたと」という社名に込めた思いを教えてください。

 

訪問看護サービスとは、人と人とがつながることのできるサービスです。そのため、社名は「あなたと」(ご利用者様、そのご家族すべての方を対象)としました。「株式会社あなたと」は、ご利用者様、その家族の幸せが実現できる会社でありたいと思っています。そのためには、サービス提供者である、ひろ訪問看護ステーションのスタッフや家族が幸せでなければ、ご利用者様の幸せも実現できません。そのことを肝に銘じ、幸せが連鎖していく会社にしていきたいと考えています。

 

-言語聴覚士として、今後取り組みたいことはありますか。

 

訪問看護事業に、言語聴覚士といったリハビリの有資格者がさらに進出し、活躍する機会を増やしたいと考えています。国の方針として入院期間の短縮が打ち出されており、在宅での療養、そして看取りといったケースが増えています。病気や後遺症を抱える方や高齢者の在宅療養など、言語聴覚士が力を発揮できる場がたくさんありますので、仲間を増やして後進の育成も行っていきたいと考えています。

 

そして、今後さらに力を入れたいのが子どもたちへのサービスの提供です。発達特性を持つ子どもたちに対して、在宅で専門的な療育を行えるのが言語聴覚士です。都心部では小児向けのサービスが盛んに行われていますが、高知ではまだ一般的ではありません。子どもたちの未来の可能性を広げるためにも、力を入れて取り組みたいテーマです。

 

株式会社あなたと/ひろ訪問看護ステーション

住所:高知県高知市神田925-4

TEL:088-881-1500

 

文責/長野春子