〜株式会社スタジオエイトカラーズ 宇田 英男さん〜

高知でアニメ業界を盛り上げる!働きやすい制作現場で自分らしい生き方

 

 
世界でも高い評価を受ける日本のアニメ。今や日本の文化とも言えるアニメの制作を行い、高知のクリエイターが地元で活躍できる環境づくりを目指す会社が高知市にあります。
 今回は、高知でアニメ制作会社を起業した宇田さんにお話を伺いました。なぜ、高知だったのでしょうか。


アニメ業界が抱える課題


 

- 宇田さんがアニメの仕事をしようと思ったきっかけは、何だったのでしょうか。

大学卒業後は大手電機メーカーに就職し、7年程度働いていました。当時はリーマンショックの時代で業界も厳しい状況で…。パソコンの部門に配属されましたが、ちょうど中国などのメーカーが大きく伸びている時だったので、日本は今後ハードで勝負するのは難しいかもしれないと感じていました。

 そこで、グローバルビジネスとして勝負できるのはアニメやマンガ、ゲームなどではないかと考えていたところ、知人からアニメ制作会社を紹介され、転職に至りました。
 

- 実際にアニメ業界に転職されて、感じたことなどはありますか。
 

 働いていた電機メーカーはホワイト企業としても有名で、残業すると上司に怒られるという環境でした。しかし、アニメ業界は深夜まで働いて当然という世界です。
 
若いアニメ好きな子が業界に入っても、過酷な労働環境や低賃金のため、10人中1~2人しか残らないという状況。また、アニメ業界はクリエイターとして入る以外、なかなか入る道がないことも特徴です。
 
私が入社したアニメ制作会社は上場していたため、電機メーカーでの経営管理の経験を活かし、管理部長として入りましたが、それは特殊なケースでした。



若者が働きやすいアニメ業界にしたい


- アニメ業界に転職された後、なぜ起業を志されたのでしょうか。

 最初に入ったアニメ制作会社の後は、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』などを手掛ける庵野秀明監督の会社で働いていました。しかし、アニメ業界全体にある労働環境の問題を解決したいと思い、若いクリエイターが働きやすい場所を作るため、2011年に東京でスタジオを設立しました。


- 東京で起業後、なぜ地方でもビジネスをしようと考えるようになったのでしょうか。
 

 アニメ制作会社は国内で800社程度ありますが、その約9割が杉並区や練馬区など西東京エリアに集中しています。その理由は現在の東映アニメーションや手塚治虫の虫プロダクションが西武池袋線の大泉学園駅の近くにあった事に由来します。結果的にそのエリアにどんどん会社が増え、1か所に密集している形です。
 
昔の西東京エリアは家賃も安く若者も住みやすい場所でしたが、今では生活コストが高くなり、地方から来た子も昔に比べると生活しやすい環境ではなくなっています。
 
そういった背景もあり、地方でアニメの仕事ができたら、若者の就職の受け皿になるのではないかと考えるようになりました。
 2015年頃から地方でスタジオを作ることを検討し始め、一緒に仕事をしていた監督のつながりから、最初は京都が候補地でした。しかし、京都の中心部の生活コストは東京とあまり変わらず、すでに他のアニメ会社も複数あることなどから断念。その後、福岡、愛知、岡山など巡って行政と話をしましたが、なかなかタイミングがつかめませんでした。

- そこから、どのように高知と出会われたのでしょうか。

 
たまたま知人経由で、高知県が主催している『biz cafe KOCHI』のことを知り、初めて高知に行きました。当時は地方で起業するにあたり、いくつか条件があり、一定の人口規模もあって、アニメを学べる学校があるということを重視していたので、高知は可能性が薄いのではないかと思っていましたが、行ったことがないので行ってみるか、がスタートでした。
 
そして、高知に来るまでにさまざまな地方を巡り、それぞれの地域での課題も見えていました。例えば、福岡は若者が増えているので、若者の雇用を創出すると言っても響きません。
 
高知は県外に若者が流出し、若い子がやりたいと思う仕事が少ないという実態を知り、ビジネスをするのに向いているのではないかと考えるようになりました。そして、高知で起業しようという結論に至ったのです。


- 実際に起業するにあたって、苦労された点などはありますか。

 
やはり、高知に縁もゆかりもないという点でしょうか。しかし、行政や地元金融機関の支援があるのでありがたく感じています。
 
起業してすぐに会社説明会を行ったのですが、4~5人来てくれたらいいかな、と思っていたところ、約150人の応募がありました。ここから、アニメ業界に興味のある若者が高知に一定数いることを実感し、高知で事業を進めていこうと改めて思いました。
 
高知にはアニメの学校はありませんが、実際に起業すると必ずしも必要ではありません。なくても大丈夫というわけではありませんが、そもそも学校がある地域は限られます。
 今は、東京から講師を呼ぶなどして教育体制を整えています。

 

- 高知でアニメの仕事をするにあたり、課題などはありますか。

 コロナ前は手描きが主流でしたが、コロナ禍を経てほとんどの会社がデジタル化しました。そのため、地方にいても、距離が遠いから仕事を受けられないということはほぼありません。
 
しかし、東京にクリエイターが集まるというのは良い部分も悪い部分もあり、優秀な人は東京に集まります。どうしても能力の差はあるので、地方でも優秀な人を確保し、成長させていくことが課題です。
 
アニメを見る人からすると、東京で作っていても高知で作っていても面白ければいいので場所は関係ありません。自分たちにしか作れないアニメを高知で作りたい。そのためには、人材育成のシステム作りが大切だと感じています。

 

多くの人に愛される作品を高知で作りたい



 

- 高知で起業してよかったと感じられる点などはありますか。

 四国全体で競合が少ないので、仕事がしやすいことです。また、高知は行政やマスコミと民間企業との距離が近いのもメリット。そして、社員には県外出身の女性も多いので、首都圏と比べると安心して暮らしやすいというのも大きな価値になっています。


- 今後は、どのようなことに取り組もうと考えられているのでしょうか。
 

 今年の秋からキー局のバラエティ番組内で放送されるコーナーアニメの、アニメーション制作を担当します。このような仕事を増やし、テレビや映画など、より多くの人に見てもらえる作品を作るために、力をつけていきたいです。
 
そして、100人規模での雇用も目指しています。現在は高知県出身者、県外出身者を問わず、絵が上手いという視点で採用しているので、県外出身者の社員も増えています。せっかく高知県で起業したので、県内出身者の割合を増やしたいですね。

- これから高知で起業したいと考えている方へのメッセージをお願いします。
 

 どこにモチベーションを置くかという点が大切です。私がアニメ業界でずっと続けられている理由のひとつが『クリエイターが好き』という気持ち。庵野監督の下で働き、クリエイターはゼロから何かを生み出す、これからの日本に絶対必要な人々だと感じました。
 
そこで、クリエイターを応援することを自分の仕事にしたいと思い、今に至ります。心の底からやりたいことがあれば、続けやすいし、エネルギーになるものです。そこに、『どんな形で高知を盛り上げていきたいのか』という視点があれば良いと思います。
 
自分が好きなことを深掘りすることが、経営者として続けていくためには大切です。


 

 

株式会社スタジオエイトカラーズ

・住所:⾼知市はりまや町2丁目6-3 高知信用金庫第一別館3階

・HP:https://eightcolors.jp/

 

文責/是永 裕子