~株式会社REALab.Works 唐岩 哲也さん~
いつからでも新しいことに挑戦できる!50代のキャリアチェンジで農業をサポート
農業が盛んで、おいしい農作物を身近に楽しめる高知県。しかし、高齢化により、耕作放棄地の増加などさまざまな課題も。そのような高知県の課題に、全力で向き合っている会社が南国市にあります。
今回は、ドローンを活用した農薬散布を通して、農業をサポートするビジネスを行っている唐岩哲也さんにお話を伺いました。
農業の役に立つために起業
- 唐岩さんがドローンを活用するビジネスを始めたきっかけは、何だったのでしょうか。
もともとは県警航空隊で勤務していました。約35年間働き、定年まであと10年というタイミングで、自分の世界を広げたいという気持ちが大きくなったのが出発点です。
公務員だけではないと思いますが、年齢を重ねるごとに現場から離れて管理が中心になるもの。若い頃は現場に出て手応えを感じていましたが、県民の皆さんと距離が開いてきた、という感覚がありましたね。そこで、新たな分野で挑戦をしたいと思い、53歳で退職しました。
南国市出身の私は、周囲に農家の方が多い環境で育ちました。しかし、高齢化で耕作放棄地も増え、このままでは高知のおいしい野菜を作る人がいなくなってしまうという危機感がありました。そうした中で、農家の方の役に立ちたいと思うようになりました。
自分自身が農業をやるということも考えましたが、未経験で一から始めるというのは難しいもの。そんな時に、ドローンで農薬散布する方法があるということを知り、ずっと空の仕事をしてきたので、これなら自分も役に立てるのではないかと思いました。
そこで、インターネットでドローンの農薬散布を行っている会社を探したのですが、見つからなくて。無いのであれは、自分が起業すればよいのではないかという考えに至りましたね。
- 起業を志した後は、どのように進められましたか。
ずっと航空機には乗っていましたが、ドローンの知識は全くなくて…。CMやテレビ番組の撮影現場などでも活躍されているドローンの第一人者、請川博一さんのウェビナーを見て、請川さんのお話にとても興味を持ったので、直接連絡をしてみました。そうしたら、『(請川さんの拠点である)旭川に来てみたら?』と言われたんです。それから3回程度旭川まで行き、ドローンを飛ばすための訓練を受けました。
請川さんからは、ドローンを飛ばす技術だけでなく、プロ意識も学びましたね。農家にとって収穫は年に1度のとても大切なことであり、収穫に向けて農家自身による農薬散布が行われています。それをドローンによる散布へ切り替えてもらうことの意味の大きさなど、ビジネスを行う上での心構えなどを教えてもらいました。
段々畑や急傾斜地での農薬散布では、高齢者の方が大変な思いをしていることも知りました。ドローンの技術はいろいろな場所で使われていますが、必要なところで普及していません。農業が抱える課題について、知らないことばかりでしたね。
そして、ドローンの技術を学び、飛び込み営業もスタート。インターネットで『ドローン ゆず』と検索して出てきた北川村の団体に連絡してアポイントメントを取り、それを機に北川村での農薬散布が始まりました。
北川村の地域の方とのつながりもでき、今では『きたがわマルシェ』などの地域のイベントで、長年の趣味であるコーヒーの屋台も出店しています。
- 起業するにあたり、大変だったことなどはありましたか。
会社の設立自体は、今は国や県が起業を後押ししているので、さまざまなサービスを活用してスムーズに進み、意外と苦労はなかったです。資金は、これまでの貯金や退職金、国や県の補助金などを使いました。
しかし、最初は情熱だけで進めましたが、未知のことばかりで、経理知識の少なさや人間関係の広げ方など悩みも多かったですね。
- こうちスタートアップパーク(以下、KSP)の起業相談も利用されたそうですね。
起業相談では、主に資金計画について相談をしました。
特に学びになったのは、ビジネスにおいて長期的な視点を持つということ。30年以上公務員として働いていたので、利益を出すという感覚が薄くて、やたら安く価格設定してしまっていたのです。
さらに、補助金の申請についても考えていたので『高知県創業支援事業費補助金(現 高知県地域課題解決起業支援事業費補助金)の、申請の際の事業計画策定についてもアドバイスをもらいました。
安いのはもちろん良いことですが、サービスを継続しないと意味がありません。1年やってつぶれたら、契約している農家さんに迷惑がかかってしまいますよね。
起業するにあたっていろいろな悩みはありましたが、KSPを利用したり独学での簿記の勉強に励んだりしているうちに、霧が晴れてきたように思います。
思わぬ出会いから広がる人とのつながり
- 起業後は、どのように事業を展開していったのでしょうか。
起業したばかりの頃は、仕事をもらうのに一番苦労しましたね。最初につながりができた北川村をきっかけに、いろいろなところから声をかけてもらい、徐々に仕事が増えていきました。
その後は、偶然の出会いも多いです。栗の生産地の農薬散布が大変そうだな、と思いJAの担当者の方と話している時に、生産者さんが偶然そこに訪れたり、趣味のトレイルランで山道を走っている途中に出会った業者の方と話しているうちに鉄塔点検の仕事をもらったり。
偶然をきっかけに、とんとん拍子に進むことも少なくありません。
そして、農家の方が集まる場にも積極的に参加しています。農家の方の前でドローンの実演をした後は飲み会。様々な場に出かけていくことが、仕事のきっかけになりますね。
- 唐岩さんのお話を伺っていると、行動力や人とのつながりでどんどん前に進まれていく姿がとても印象的です。起業後は、どのようなことを感じられていますか。
西土佐や室戸など高知県内各地を西から東まで走り回り、夜明けから農薬散布、帰ったらドローンの手入れという日々なので、悩んでいる暇が無いかもしれません。
少し時間ができたら、ロードバイクやトレイルランなどの趣味も楽しんでいます。そこでも、思わぬ出会いから仕事につながるのでおもしろいですね。
振り返ると、最初に法人化しておいてよかったと思います。偶然の出会いから生まれた仕事は、相手が企業の場合も。個人事業主ではなく、法人だからこそ契約できた仕事もありました。
この仕事は、手ごたえを直接感じられることが多く、やりがいや生きがいにつながっています。そして、多くの方との出会いが自分自身の人生をとても豊かにしてくれていると感じます。自分が携わった作物のできが、とても気になりますね。
10年あれば何でもできる
- 今後は、どのようなことに取り組もうと考えられているのでしょうか。
1年の中で農薬を散布する時期は限られています。ひとりでビジネスをしているうちは良いですが、今後、社員を雇用しようと考えた時に、通年の仕事がありません。
そのため、ドローンに限らず、もう少し仕事の幅を広げたいと考えています。現在は、大学との共同研究なども行っていますが、後継者がいない飲食店の経営なども興味がありますね。
困っている人の役に立てて、おもしろそうな仕事なら何でも挑戦したいという想いでやっています。
- これから高知で起業したいと考えている方へメッセージをお願いします。
今は、70歳頃まで働かなくてはならない時代です。例えば警察官なら、定年退職後はガードマンなど、今までのキャリアの延長の仕事を選ぶ人が多いでしょう。
しかし、視点を変えると他にも仕事の選択肢はあります。10年あれば何でもできます。今までの仕事は卒業して、全く違うことにチャレンジすることのおもしろさを、多くの方に知ってもらいたいです。
みんな、もっと自由に生きられるのではないでしょうか。年齢は関係なく、『情熱』『熱意』があれば周りが協力してくれます。
若い世代はもちろん、同世代にも起業にチャレンジしてもらいたいです。『年甲斐もなく』という言葉、大好きです。
株式会社REALab.Works
・HP:https://realab-works.co.jp/
文責/是永 裕子