〜「あいあーる訪問看護ステーション」小松博文さん〜
地域医療を支える看護師の挑戦
高知県東部に位置する安芸市で、2024年1月に新しい訪問看護ステーションが誕生しました。
合同会社あいあーるが運営する「あいあーる訪問看護ステーション」。
この訪問看護ステーションを経営するのが、県内の病院を退職して起業した代表の小松博文さんです。
公務員を退職して起業という道を選んだ理由やその背景、地域への想いなどを伺いました。
病院を飛び出し、地域へ赴く
- 20年以上勤めた病院を退職し、起業するに至った背景を教えてください。
私は安芸市の出身で、長らく県内の病院で看護師として働いてきました。勤める中で、「精神科認定看護師」の資格を取得し、また、認定看護師の取得を目指す方を教える講師としても活動するなど、看護や精神科のプロフェッショナルとして知識や経験を積んできました。
近年では、入院期間の短縮とともに在宅医療の充実を図るという国の方針が進められていることはご存知の方も多いかと思います。そんな変化の中で、患者さんと病院内で接する機会が少なくなり、退院後の生活等についてより深く患者さんと関わり、サポートすることができないだろうかと考えるようになりました。
それならば、私たちが地域へ出て在宅医療を提供し、その後の生活のサポートをしようと思い至り、公務員を辞めて起業することを決めました。
- 起業に際しては、どのような準備をされましたか?
まずは、訪問看護に関係する情報収集をするところから始めました。厚生労働省が出している資料から、安芸市や室戸市といった東部エリアの自治体が出しているものまで、たくさんの資料に目を通しました。そこから、顕在化している患者数から潜在的なニーズまでを把握し、また訪問看護ステーションの数やそこで働く看護師の数も調べました。さらに、サービスを提供している東部エリアの自治体を訪問し、医療に関するお困りごとをヒアリングしました。自治体が困っていることを私たちが解決できれば、地域に寄り添ったサービスを提供できます。
データ分析と対面でのヒアリングから、「精神科のプロフェッショナルもいる、24時間対応の訪問(看護)サービス」という事業内容を固めていきました。
事業内容のおおまかな方針が決まってから、事業計画を立てるにあたり何か活用できる支援制度が無いか調べる中で、こうちスタートアップパーク(以下、KSP)と「高知県創業支援事業費補助金(現:高知県地域課題解決起業支援事業費補助金)」の存在を知りました。KSPでは、専門家による事業計画の策定支援を行っていて、これまで考えてきた事業アイディアについて、第3者の視点からアドバイスをもらうことができました。おかげで、より事業の内容をブラッシュアップできたと感じています。そして、補助金の採択も無事に決まり、スタートまでの準備を順調に進めることができました。
地域医療への想いを持った、志ある仲間とともに
- 小松さんだけでなく、職員の方も看護師が多いそうですが、どのように採用活動をされましたか?
2023年12月末に「合同会社あいあーる」を設立し、翌月2024年1月に「あいあーる訪問看護ステーション」が開所しました。立ち上げ時は私を含めて看護師が4名で、その全員が看護師です。かつて一緒に働いていた志ある職員が、立ち上げ時に入職してくれたことはとてもありがたかったです。設立から丸1年で、職員は事務職を含め8名になる予定です。この職員で、在宅で療養する癌等のお客様、ADHD(注意欠如・多動性障害)やASD(自閉症スペクトラム症)といった発達障害、統合失調症、うつ病、アルコール依存症といった様々な病気や背景のあるお客様とその家族にサービスを提供しています。
職員の採用は、信頼できる仲間からの紹介を基本としていて、プロフェッショナルとして仕事に従事してきた経歴や地域への想いを持って働いてくれる方に来ていただいています。また、モチベーション高く働き、地域の皆さんに喜んでいただけるサービスを提供するために職員の待遇面も重視しています。
- 「あいあーる」という事業所名に込めた想いを教えてください。
会社名の「あいあーる」には「愛がある」という意味が込められています。信頼関係の構築を企業理念に掲げ、お客様に愛を持って接し、お客様や地域の皆様からも愛される事業所になるということを大切にしています。
- 事業を開始してから今まで、苦労はありましたか?
1月に訪問看護ステーションを開所し、2月の訪問件数は1件でした。3月もほとんどお客様がいない状況で、5月頃から徐々に増えてきました。起業してからずっと胃がキリキリと痛むような、不安が大きい状況でしたが、一番苦しかったのは6月頃です。私たちの事業は、診療報酬として国から支払われるため、その性質上、医療サービスの提供から現金として手元に届くまでに2ヶ月の遅れが発生します。銀行から借入れた資金が目に見えて減っていく中で、この2ヶ月間の遅れは当然のこととは言え、資金的に厳しいものがありました。
その後は順調にお客様を増やすことができ、11月末時点で、1年目の目標であった2倍の方に利用していただくことができました。
また、当初は土日の対応などは私一人で対応していましたが、職員が増えたこともあり、丸一日ゆっくり休むこともできるようになってきました。訪問看護ステーションの管理者も採用でき、職員に任せられる体制が整ってきています。
2040年を見据えて、今できることは「東京進出」
- 東部地域を含む高知県では高齢化が進んでいますが、将来に向けた計画などはありますか?
高齢化が特に進む東部地域では、2040年には高齢化率が約50%に達するとされています。その時には高齢化だけでなく、若年人口の都市部への流出により人口減少が加速しているかもしれません。そんな状況では、東部地域で採算を取ることは難しく、今と変わらない訪問看護サービスを提供することは不可能です。
そのような未来にならないために、2025年に東京への進出を計画しています。さらに、近い将来に大阪・福岡でも事業を開始したいと考えています。都市部で利益をあげることで、高知県東部地域の事業が例え不採算となったとしても、閉所することなく事業を継続していくことができます。それが東部地域の医療を守るために、わたしたちが今できることです。
- 東部地域の事業所だけでなく、東京・大阪・福岡への進出計画と順調に事業が推移しているようですね。
1年目としては順調な滑り出しですが、東部地域の潜在的なニーズに対してまだまだサービスを十分に提供できているとは言えません。まずは私たちを知っていただき、在宅医療を必要としている方にサービスを届けることが大切だと思います。
将来的にどうありたいということはあまり明確に持っておらず、患者さんの望むような訪問看護ステーションでありたいと思っています。地域の医療従事者として、地域のお客様が望む医療を提供するために「あいあーる」があり続けることが理想です。
あいあーる訪問看護ステーション
・住所:高知県安芸市本町2丁目4番9号
・HP:https://aiaru.jp/
文責 / 長野 春子