~室戸のたまてばこ 川上 郁夫さん~

室戸の魅力を伝えたい!海洋深層水を活用した新しい特産品を目指して

 

 
旅に行くと楽しみなのがその地域の魅力が詰まった特産品。地域活性化にもつながる新たな特産品づくりを目指している事業者が室戸市にいます。
 今回は、東京から室戸市に移住後、クラフトコーラ等の素になる、室戸海洋深層水を使用したシロップを製造販売している川上郁夫さんにお話を伺いました。



起業を目指して積み上げたキャリア


- 川上さんが都市部から地方へ移住されたきっかけは何だったのでしょうか。

 出身は東京で、これまでさまざまな仕事を経験してきました。学生時代は化学を専攻していて、卒業後はメッキ液を作る会社で技術職として勤務していましたが、将来的に起業したいと考え、まずは接客業を通じて営業的な視点を学ぼうと会員制リゾートホテルのレストランのホールスタッフに転職しました。下田と箱根の店舗で約2年間働きましたが、当時は長時間労働に対する意識も薄い時代でもあり、働いて寝るだけの生活になってしまいました。スキルアップできる時間がないと感じて東京に戻り、アルバイトをしながら簿記の勉強をしていたところ、近所の会計事務所から声がかかり、そこで働くことになったのです。
 そして、会計事務所で働きながら経営管理を学ぶために大学院に通い始めました。論文執筆中に、地域おこし協力隊の制度を知ったことが、思い返せば移住への大きなきっかけになったと思います。
 大学院は2020年3月に修了し、大学院で学んだことを今後の人生にどう生かそうかと考えていたのですが、当時はコロナ禍。地方移住が注目され、急速にzoomや動画配信が普及し、働く場所は地方も都会も関係ない時代になっていました。私自身の健康上の理由から人が密集していない地方移住への興味もあり、地域おこし協力隊のことを思い出しました。
 もともと起業もしたかったので、これはチャンスではないかと思い移住を決意したという経緯です。


- 地域おこし協力隊の赴任先として室戸市を選んだ理由は何だったのでしょうか。

 観光に携わる仕事がしたいと考えていたことと、海の近くで暮らしたいという思いで移住先を探していたところ、室戸市が観光に関するミッションでの地域おこし協力隊員を募集していることを知りました。
 コロナ禍なので面接はすべてオンライン、引っ越し先探しと市役所への挨拶に来たのが、初めての室戸。実は、室戸市どころか高知県も四国も来たことがありませんでした。
 他のエリアへの移住も検討していましたが、室戸に来て感じたことは「ここで生きていけそうだな」。不思議と違和感がありませんでした。ホテル時代に働いていた伊豆の下田と雰囲気が少し似ているからかもしれませんね。



室戸の魅力を伝える商品づくり


- 地域おこし協力隊の活動を経て起業に至った経緯をお聞かせください。

 室戸市に移住後は、観光ガイドや観光マップの作成などを通して、外の人が訪れるきっかけづくりをしたいと考えていました。コロナ禍で海外に行けない時期でもあったので、日本の人が日本のメジャーではない観光地を訪れる流れを作りたかったのです。
 地域おこし協力隊の活動内容としては、県立室戸広域公園の『2000本桜』に関する情報発信などを行っていました。
 しかし、地域おこし協力隊の研修の中で起業に関するシミュレーションをしていた時に、当初考えていた観光マップや観光ガイドの事業では収益化できないことに気づきました。そこで一旦、そのプランはリセットしましたね。
 事業プランを練り直す中で、室戸ならではの海洋深層水の魅力が十分に伝えられていないことに気づきました。海洋深層水は主にミネラルウォーターでしか販売しておらず、ジュースなどにはなっていません。無いなら自分で作ってみるか、と思ったことが今の事業に至ったきっかけです。
 そこで、クラフトコーラに着目しました。クラフトコーラのシロップの主な材料は水と柑橘類とスパイス。水と柑橘類は室戸市で手に入ります。これなら室戸ならではの商品が作れると思い、海洋深層水を使ったシロップづくりを独学で始めました。


- 起業を志した後は、どのように進められましたか。

 シロップを試作後、縁あって室戸市内の飲食店で販売できることになりました。シロップは炭酸水で割ればクラフトコーラ、お酒で割ればコーラ味のアルコール飲料になります。約1年間、お店で実際にお客さんに飲んでもらいながら販売していました。
 そして、地域おこし協力隊の任期、住んでいた移住促進住宅の期限となる3年を迎えるタイミングで空き家バンクを活用して次の家を見つけ、その一角を製造所として改修して製造をスタートさせました。

 起業をする前に、何か活用できる支援制度がないか調べていたところ、こうちスタートアップパークにて様々な支援メニューがあることを知りました。そこで「起業入門セミナー」や「起業アイディアブラッシュアップコース」等の各種セミナーへ参加し、起業に関する知識を習得しながら事業内容をブラッシュアップすることができました。
 また、高知県が主催するビジネスコンテスト「Kochi Start-up Pitch」にも登壇することで、人脈づくりにもつながりました。


- 実際に起業するにあたって、苦労された点などはありますか。

 シロップのレシピを作るにあたり、一人で試作を重ねる中で何度も失敗をしました。納得できる味が完成するまで約3か月かかりましたね。
 クラフトコーラは世の中にたくさんありますが、価格帯が比較的高いので手を出しにくい印象があります。そのため、少量で価格を抑えた商品にしていることがこだわりです。レシピを作りながら価格設定も考えるという作業が続きましたが、商品に添付する食品表示ラベルの作成が思いのほか大変でした。
 ちなみに、シロップのパッケージのラベルは、イラストが得意な俳優の方に描いてもらいました。もともとその方のイラストが好きだったので、事業計画書を基に熱意を持ってプレゼンしたら、引き受けてくれました。



良くも悪くも“想定外”のことが起こるのが起業


- 実際に起業されて、どのようなことを感じられていますか。

 商品を購入してくれた方がリピーターになった時に、やりがいを感じています。地域おこし協力隊時代に応援してくれた人が、起業後も引き続き応援してくれることもうれしいですね。
 そして、起業後に感じていることは、少しでも利益が出るようにという視点が大切だということ。資金が豊富にある場合は薄利多売でもできるかもしれませんが、ない場合は運転資金確保のために利益はきちんと確保する必要があると感じています。


- 今後は、どのようなことに取り組もうと考えられているのでしょうか。

 商品のラインナップを増やすことです。スパイスの種類を変えるなど、他のフレーバーのシロップも作りたいと考えています。また、また、昨今SDGsが注目を浴びる中、製造工程で思うところもあります。私だからこその視点や個人事業だからこその身軽さを生かした商品開発ができればと考えています。


- これから高知で起業したいと考えている方へのメッセージをお願いします。

 自分が起業しようと思っている事業に対して、果たして自分自身はお金を出すかと考えることが大切だと思います。事業を進めることはもちろんですが、その事業を自分が利用するかどうかという利用者側の視点も必要。自分が買わないものを人に買わせるというのは、説得力がありません。
 そして、起業というのは良くも悪くも「想定外」があります。想定外のことは必ず起こるものと考え、想定外の出来事が生じたときに、その想定外を受け入れて、その後の自分の行動を考えるだけの心の余裕を持ち続けることが大切です。

 

 

室戸のたまてばこ

・HP:https://murotobox.official.ec/

 

文責/是永 裕子