~BAR Ushiro  後田 裕里さん~

心ときめく一杯をお届けしたい

 

 「インスタグラムで見つけてから、ずっと来たかったんです。ようやく来れました。」そう話すお客様の表情はとても嬉しそう。今や大人気の高知県産の食材にこだわった素敵なカクテルバーが高知市にあります。9年間の修業を経て、地元の魅力を発信する独自のバー経営に挑戦する後田裕里さんにお話を伺いました。

 

青いカクテルとの運命的な出会い

- バーテンダーという仕事を選んだきっかけを教えてください。

 大学時代に近くにあったバーにお客さんとして入ったことがきっかけで、当時、生意気にも自分にあったカクテルを作ってほしいと頼みました。それが本当に自分にぴったりですごく感動しました。青色で、ちょっとさっぱりしているんですが、でも甘みもあるようなカクテルでした。

 鮮やかな色合いだけでなく、味もすごく印象的で、当時はシャカシャカとシェイクする音がかっこよく、ひとつの作品を作り上げるようですごく魅力的に感じました。

 そこでバーテンダーという職業に興味を持ったものの、すぐにバーテンダーの仕事には就かず、別の仕事をしていました。30代で地元の高知県に戻るタイミングで、何か新しいことに挑戦したいと思い、バーの門を叩きました。

 

9年間の修業で培った技術とおもてなし

<カクテル名:Yuzu Pacifica(ユズ・パシフィカ)>

 

- バーテンダーを始めた頃の苦労や経験について教えてください。

 バーテンダーという職業が初めてだったので、何もかもが本当にゼロからのスタートでした。お客様に対する接客から覚えていったのですが、最初の1ヶ月ぐらいはお客様との会話が全く続かない状況でした。また、あまり休憩もないですし、立ち仕事は初めて経験したので、姿勢を保つのも本当に大変でした。

 

- 修業時代に大会にも出場されたそうですね。

 修業時代には、各種カクテル大会にも出場させて頂きました。日本バーテンダー協会主催の大会では、四国大会に数回出場し、技術と所作を研鑽する貴重な機会となりました。また、酒類メーカー様主催の大会では、ファイナリストとして本戦に出場させて頂いた経験もございます。大会では、所作や技術面の正確さはもちろん、カクテル名と創作意図、そしてデコレーションとの整合性など、総合的な表現力が問われます。特にメーカー様主催の大会では、「10年後の世界」「故郷の思い出」「宇宙」など、与えられたテーマに沿ってオリジナルカクテルを創作することもあり、発想力と表現力が求められました。
 約9年の修業期間を通して、そうした経験の中で技術とおもてなしの心を培ってまいりました。

 

起業への決断

- 独立を決意されたきっかけは何でしたか。

 9年ほど修業させていただいき、経験を積む中で、自分の店を持ちたいという気持ちがすごく強くなって起業に至りました。前に働いていたお店が閉店することもきっかけのひとつでした。ただ、コロナ禍だったこともあって、すぐにお店を出すのは難しいかなと思い、しばらく様子を見ることにしました。
 
当時の私にとって、40歳という年齢も一つの節目でした。やるなら今だと思ったんです。

創作への情熱と音楽との共通点

<カクテル名:ambition(アンビシオン)>

 

- スタンダードカクテルよりも創作系がお好きとお聞きしました。

 子供の時に習っていた音楽とも共通していて、私は即興で創作するのがすごく好きなんです。 正直、クラシックカクテルを作るのは楽譜通りに演奏するのと似ていて、あまり得意ではないんです。スタンダードカクテルというのは基礎として大切なのはわかるんですが、レシピ通りに作るよりも、自分なりの創作を加えたいという気持ちが強くあります。
 そのため、BAR Ushiroの強みは創作系カクテルが豊富なことです。ちなみに当店の看板カクテルとして創作した「ambition」は青い色のカクテルです。あの時飲んだ青色のカクテルが、ずっと頭のどこかにあるんだと思います。

 

地元高知の食材へのこだわり

- 現在の事業内容について教えてください。

 もともとお店を出すときから、高知の食材の魅力を発信したいという思いで事業を始めたため、地元の食材を生かしたカクテル作りを中心としています。高知出身なので、当然、地域のものへのこだわりや思いがあります。修業時代の恩師のお店でも地元の食材を大切にしていましたし、お客様の中には農家さんや生産者の方もいらっしゃって、お話を聞く中で皆さんの思いや情熱を感じて、とても感銘を受けました。

 

- 高知県産で揃えるのは大変ではないですか。

 メニューは、その時期に採れる食材に合わせて週に1回変えており、それに合わせた仕入れが日課となっています。週ごとに市場や道の駅を回ったり、生産者の方と直接やり取りをさせて頂きながら仕入れを行っています。そうした中で、実際に生産に携わる方々と顔を合わせ、お話を伺うことが何よりの刺激になっています。小さい頃から自宅にはよくフルーツがあり、フルーツが大好きだったという原体験も今につながっているかもしれません。私は、地方だからこそできることがあると感じています。地域との密接なつながりを活かして、たとえ一人でも地元・高知の魅力を丁寧に発信していきたいと考えています。

 

支援機関の活用と資金調達

- 開店までの準備期間はどのように過ごされましたか。

 お店の準備をしながら、イベントなどにも出店させていただいていました。融資を受ける時が一番ドキドキしました。借りることができなかったら、やっぱり始められませんから。
 
まず、こうちスタートアップパーク(以下、KSP)にまず相談に伺い、事業のコンセプトを決めていきました。当初はキッチンカー型のカクテルバーの構想を描いていたのですが、顧客がカクテルバーに求めている価値に対して具体的な体験を提供できているか、機能としてキッチンカーが本当に適切なのかという問いを起業コンシェルジュに投げかけられて、今一度自分に問いかけてみました。その結果、まずは定常のお店を構えることを決断できました。もちろんその選択の正解、不正解は誰にも分かりませんが、今はお店の形で良かったと思っています。また、事業計画策定セミナーにも参加し、数字の根拠をしっかりと示すことの重要性を学びました。
 
その後、高知商工会議所で、事業計画を見ていただいたほか、特に売上予測について、なんとなくの感覚で数字を作っていたのですが、客単価や客数の根拠を具体的に示すことで、より説得力のある計画書に仕上げることができました。融資を獲得できたときはすごく嬉しかったです。こういった支援があってこそ、スタートを切ることができましたので、支援機関をうまく活用することが大切だと思います。

 

集客とSNSの効果

- 開店後の集客はいかがでしたか。

 SNSを活用しているため、SNSを見てご来店いただく方が圧倒的に多いんです。ただ、やはり月によって違いがあります。2月や8月はどうしても少なくなってしまいます。ちょっと外れたところに店を構えているので、最初はそこが心配でしたが、カクテルという商材の特性で、写真を見て「美味しそう」「かわいい」と思って来店いただけることが多く、それが集客につながっています。SNSの運用はKSPの交流会で知り合った方にお願いをしていて、あの時の出会いがあって本当によかったと思います。お客様が増えていくと、とても嬉しいです。

 

今後の展望

- 今後の展望をお聞かせください。

今後は、キッチンカーなどを活用して、こちらからカクテルを届けに行くような取り組みを考えています。お店で待つだけでなく、様々な場所に出向いてカクテルを提供することで、より多くの方に高知の食材を使ったカクテルの魅力を知っていただきたいと思っています。地方だからこそできる、地域との密接な関係を活かしながら、高知の食材の素晴らしさをカクテルを通じて発信し続けていきたいです。

 

- これから高知で起業したいと考えている方へメッセージをお願いします。

雇用されて働いているのと、実際に経営してみるのとでは見える景色が全然違います。大変なことも多いですが、自分で決めていけるということは起業家じゃないと味わえない経験です。人生一度きりなので、迷っていたら早めに踏み出しても良いかもしれません。


 

bar ushiro

・instagram:https://www.instagram.com/bar_ushiro/

文責/楠瀬 まどか