~和の森 sotoffice 鈴木 弘平さん~
一歩踏み出した先にあった、高知での新しい場づくり

高知県四万十町で、“アウトドア系クリエイターシェアカフェ”『sotoffice』を立ち上げ、地域と人をつなぐ拠点を育んできた鈴木弘平さん。
2025年8月には、高知市中心部の京町商店街に新たな拠点『和の森 sotoffice』をオープンして、カフェバーを併設したコワーキングスペースを軸に、活動の幅を広げています。
東京から高知へ移住し、ゼロから拠点を築いた背景と、“場づくり”に込めた想いを伺いました。

「おもしろそう」が、すべてのきっかけだった
高知に移住して起業に至るまでに、さまざまな経験を重ねてこられたと伺いました。これまでの歩みについて教えてください。
神奈川県相模原市の出身で、大学では建築を学んでいました。実は、卒業後すぐに就職はせず、1年半ほどバックパッカーとして海外を旅していたんです。それは卒業前から決めていて、フィリピンやオーストラリア、ニュージーランド、南米など、さまざまな国を巡りました。異なる文化や人との出会いは、今の自分にも大きな影響を与えていると感じます。
帰国後はエアライン系の建設会社で5〜6年勤務し、その後、友人の勧めでIT業界へ転職しました。ITの知識は全くありませんでしたが、働きながら技術を身につけ、実績を積んでいきましたね。
高知へ移住するきっかけは何だったのでしょうか。
コロナ禍でリモートワークが進み、ITの仕事はどこでもできるということで、会社が東京のオフィスを閉鎖して“地方に拠点を構えてみよう”という話が出たんです。社長が四万十町のファンだったこともあり、候補地として四万十町が挙がり、社内で立ち上げメンバーの募集が行われました。それまで高知には一度も行ったことがなかったのですが、“おもしろそうだな”という気持ちで手を挙げました。そして、2021年2月に、高知に知り合いが一人もいない状態で移住。最初の数か月は本当に誰とも接点がなく、社長と2人で過ごしていました。
移住当初は、人とのつながりがかなり限られた環境だったのですね。
そんな中、春に四万十町で行われる『四万十川桜マラソン』のボランティアに参加したことが転機になりました。そこで役場の職員や地域おこし協力隊の若い人たちと出会い、一気に人脈が広がったんです。
そこからは、マルシェや地域イベントの企画を手がけたり、四万十町主催のビジネスプランコンテストに出場したりと、活動の幅を広げていきました。

自分の手で形にした、四万十町での拠点づくり
移住先で、拠点を“自分の手で”つくることになったのは、どのようなきっかけがあったのでしょうか
移住してしばらく経った頃、近所の喫茶店が閉店するという話を聞き、“今だな”と直感してすぐに物件を借りました。
建築学科出身で、自ら空間をデザインしてみたいという気持ちと、いつかカフェを開きたいという夢もあり、会社のオフィス移転とカフェ運営を兼ねた拠点として構想を描きました。
そして、「sotoffice」を、“何かに挑戦したい”クリエイターを応援するシェアカフェとして立ち上げました。
ただ、残置物の処分や壁の解体、壁紙の張り替えといった作業のほとんどを自ら手がけたので、オープンまでには約10か月かかってしまいましたね。
起業に向けて、支援制度なども活用されたと伺いました。
こうちスタートアップパーク(KSP)の起業相談をオンラインで利用しました。相談を通じて県内の起業家とつながれたのは大きな収穫でしたし、信頼できる相談相手ができたことは、とても心強かったですね。
IT業界から地方でのカフェ運営へ。大きな転換だったと思います。
実は、最初から起業を目指していたわけではなく、気づいたら独立していた、という感覚が近いですね。勤めていた会社が高知から撤退することになった頃には、すでに『sotoffice』を立ち上げていました。
東京に戻るという選択肢もありましたが、クラウドファンディングで多くの方に支援していただいていたこともあり、半年でお店を閉めるのは不義理だと感じたんです。
それに、起業した以上は“最後まで走りきりたい”という気持ちもありました。そういった思いから、高知に残る決断をしました。
その後、どのように事業を展開されていったのでしょうか。
独立後は、フリーランスとしてWEB制作やデザイン、アプリ開発といったITの仕事を続けながら、カフェの運営や地域イベントの企画にも注力しました。
BtoBの案件が多い一方で、人とコミュニケーションをとることが好きなので、イベントを通して人が集まり、新しいつながりが生まれる場をつくるのが何より楽しいですね。
これまでの経験を活かしながら、自分らしい“場づくり”を少しずつ形にしている途中です。

高知市の中心に生まれた新たな“挑戦の拠点
四万十町に続き、高知市にも活動の場を広げたんですね。今日は、高知市の拠点「和の森sotoffice」でお話を伺っていますが、街の中心とは思えないほど自然を感じる空間です。
この場所には、どのような思いを込めたのでしょうか。
以前から高知市でもお店を持ちたいという気持ちがあり、知人からテナント募集の話をいただいたのをきっかけに、2025年8月にオープンしました。カフェとテラス部分を借り、イベントスペースや会議室は地元企業と連携して運営しています。
ちなみに、『sotoffice』という名前には、“外(Soto)のようなオフィス”という意味を込めています。オフィスとアウトドアを掛け合わせ、外で遊ぶように学び、挑戦する場をつくりたいという想いから名づけました。
起業家やクリエイターに限らず、さまざまな人の“きっかけ”になる場所を目指しています。
高知市での拠点づくりでは、苦労されたことなどはありましたか。
地元密着で動きやすかった四万十町とは違い、高知市は中心街ということもあって、人との関係づくりや資金面など、準備の段階で大変なことが多かったですね。思い切って銀行と融資の交渉を行い、クラウドファンディングも組み合わせて、ようやく形にできました。
拠点を広げたことで、運営面にも変化があったのではないでしょうか。
現在は、カフェやイベントの運営に加え、WEB制作やデザイン、クラウドファンディング講座といった起業支援やグッズ販売も行い、幅広く事業を展開しています。
拠点を広げたことで、県外の方も立ち寄りやすくなり、地元企業や自治体の方々とのつながりも増えました。
人を雇う余裕はまだありませんが、働いた分だけ次のアクションにつながる実感があり、それが大きなやりがいになっています。

情熱には賞味期限がある」未来を動かす“きっかけ”づくり
今後は、どのようなことに取り組もうと考えられていますか。
イベントをさらに増やしていきたいと思っています。人と人をつなげたり、誰かの“きっかけ”になる瞬間をつくったりすることが好きなんです。
非日常的な体験を通して、新しい挑戦に踏み出す人が増えるような場を、もっと整えていきたいですね。
その先には、中四国や関西圏への出店も視野に入れています。カフェやイベントといった形にこだわらず、『sotoffice』という世界観を伝えられる場所を広げていきたいですね。
この場所を介して人がつながり、動き出すことに価値があると思っています。
最後に、これから高知で起業したいと考えている方へメッセージをお願いします。
やりたいと思ったときに動かないと、その気持ちはどんどん薄れていってしまいます。僕は“情熱には賞味期限がある”と考えています。
僕自身、起業は失敗だったと思う部分もありますが、情熱に従って踏み出したからこそ後悔はありません。
起業は特別なものだと感じる人も多いかもしれませんが、人生の選択肢のひとつとして“起業”という道もあると伝えたいです。
高知は首都圏に比べて挑戦のハードルが低く、人脈を築ければ可能性が広がる土地だと思います。自分の情熱を信じて、一歩を踏み出してみてほしいですね。
sotoffice
・住所:高知県高岡郡四万十町琴平町15-28
・HP:https://sotoffice.com/
和の森 sotoffice
・住所:高知県高知市はりまや町1-2-12
・HP:https://www.kano-kensetsu.com/kano-sotoffice/
文責/是永 裕子
