〜株式会社テナンズ「KITOAS」見神 準さん〜
「木と共に暮らす明日」を創りたい僕が家具づくりの道を選んだ理由

高知県安芸市の築年数を感じさせる趣ある建物に、木のぬくもりがやさしく漂う空間があります。家具職人の見神 準さんは古民家や空き家をリノベーションしながら、木製キッチンの製作や空間利用の提案など、暮らしに寄り添うものづくりに取り組んでいます。京都で生まれ育ち、家具職人としての修行を経て高知へ移住した背景には、自然とともに生きる暮らしと、家族との時間を大切にしたいという思いがありました。
自然と家族、ふたつの出会いが家具職人への道を開いた
どういったきっかけから、家具職人という道を選ばれたのですか?
生まれ育った京都で大学時代を過ごし、環境系の学部で学びました。祖母が林業を営んでいたこともあり、「自然の資源をどう活かすか」というテーマに以前から関心がありました。
大学卒業後、大阪の金型製造会社の木工部に就職しました。転職を考えていた時期、ある外資系の家具メーカーの面接で英語力の壁にぶつかったことをきっかけに、悔しさからフィジーへ語学留学を決意しました。帰国後は京都でアンティーク家具を修復する仕事をしていたのですが、「やはり自分の手で家具を作りたい」という思いが強くなり、長野にて家具の基礎から学ぶ学校へ入学し、家具作りを一から学び直しました。

高知への移住はどういうきっかけだったのですか?
高知出身の妻との出会いが、高知への移住を決める大きなきっかけとなりました。帰省するたびに惹かれていたこの地の魅力に背中を押され、安芸市内の家具店に転職しました。その後さらに、木のおもちゃメーカーに職人として転職し、家具職人としての腕を磨きました。
そして、これまでの経験を活かし、より「自分のやりたいこと」を実現したいという思いから、独立を決意しました。
古民家と家具。「暮らしに寄り添う空間」を作りたかった
起業を決めた理由は何だったのでしょうか?
高知には、まだ古い建物がたくさん残っています。それらを目にするたびに、「壊すのはあまりにももったいない」という気持ちが強くありました。
いつか自分の会社を持てたら、そうした古民家をリフォームし、その空間の中に自分が作った家具を配置してみたい。そうすれば、ただ家具をつくるだけでなく、より人の暮らしに寄り添ったものづくりができるのではないか。そんな思いから、起業を決意しました。

ご家族の反応はどうでしたか?
「人生は一度きり。楽しまなきゃもったいない」。そんな前向きな気持ちがある一方で、やはり起業には不安もありました。しかし、そんな私とは対照的に、妻は「やったらええやん」と迷いなく背中を押してくれたんです。
その言葉に勇気をもらい、一歩を踏み出すことができました。
起業後の現実。失敗から学んだこと、支えてくれた人たち
順調なスタートを切れましたか?
2024年7月に開業しましたが、最初の数ヶ月はかなり厳しい船出でした。1年かけて準備したうえで、家具の見本づくりに2ヶ月を費やし、いざ事業を開始したタイミングでの受注はありませんでした。正直「出だしから失敗したな」と感じたのが本音です。
しかし、この状況を打開しようと、まずは人とのつながりを大切にしました。知り合いからの紹介で徐々にお客さんが増え始めました。また、店舗での営業が難しい分、Instagramでの情報発信に注力しました。地道な活動ですが、継続することでオンラインでの発信が大きな効果を生むことを実感しました。
起業から半年が経った頃には、ようやく顧客や取引先が増え、事務所に足を運んでくださる方も出てきました。さらにもう一つ大きな失敗があります。私は法人格で事業をスタートしたのですが、役員報酬を適当に設定してしまい、社会保険料などで資金繰りが厳しくなってしまいました。製造業の場合、最初から法人化するのはリスクがあるかもしれません。
今振り返れば、まずは個人事業主として始めて、事業が軌道に乗ってから法人化するのが賢明だったと思います。半年先の売上を見通せる状態であれば問題ないかもしれませんが、そうでないなら、1年ほど様子を見て、キャッシュフローをしっかり予測した上で立ち上げるべきでした。

こうちスタートアップパーク(以下、KSP)との出会いについて教えてください
起業を考え始めた頃、補助金制度を調べていた際に、KSPを知りました。起業相談で丁寧に話を聞いてもらう中で、高知県地域課題解決起業支援事業補助金の存在を知り、補助金の申請準備を進めると同時に、集中メンタリングコースの受講を決めました。
特に印象に残っているのは、自分では十分に考えきれていなかった数字の面で、厳しくも的確なアドバイスをいただいたことです。事業計画を一から見直す大きなきっかけになりましたし、「まずはやってみよう」「動くことで見える景色がある」といった言葉にも背中を押されました。
最終的に補助金の採択も決まり、起業に向けた動きが一気に加速したと感じています。

人生は一度きり。どうせなら、思いっきり楽しんだ者勝ち
今後、挑戦していきたいことを教えてください
この空間を使って、人々に「新しい時間」や「新しい楽しみ方」を届ける仕事をしていきたいです。ただ売上げを追い求めるのではなく、長く続く価値を大切にしながら、地域に貢献できる存在になれたら嬉しいです。
最後に、これから起業する方に向けてメッセージをお願いします
正直なところ、起業は楽なことばかりではないと思います。もちろん、最終的な責任はすべて自分自身にあります。しかし、それは決して孤独な戦いではありません。
困ったときには手を差し伸べてくれる仲間がいますし、相談に乗ってくれる専門家や支援機関もたくさんあります。
「もし、何かやりたいことがあるなら、まずは一歩踏み出してみる。そうすれば、世界は少しずつ広がっていく」と私は信じ、今日もひたむきに家具づくりに向き合っています。

KITOAS
・住所:高知県安芸市川北甲1612
・HP:https://kitoas-taz.com/
・Instagram:@kitoas_kochi
文責/楠瀬 まどか