〜合同会社きみのたねこうぼう 澤田 朱夏さん〜
学生起業家が創る、子どもの未来を変える「新たな居場所」

土佐市にて、駄菓子屋と学習スペースを組み合わせた、子どもの新しい居場所づくりをスタートさせた澤田さん。学業と並行して起業の準備を進め、2025年5月に合同会社きみのたねこうぼうを設立しました。
「子どもの選択肢を増やしたい」という強い信念を持つ澤田さんが、なぜ「起業」という道を選び、どのような想いで事業を展開しているのか、その挑戦の背景にある想いと今後の展望を伺いました。
「起業」を選んだ理由と、子どもの居場所づくりへの原点
学生でありながら「起業」という道を選んだきっかけは何だったのでしょうか。
就職を考えたときに、自分がやりたかった子どもの居場所づくりを実現している企業が見つからなかったため、「それなら自分で創るしかない」と決意したのが一番のきっかけです「起業はかっこいい!」という憧れや、「自分でお金を生み出す」ことを自ら発見したいという強い想いもありました。
この活動を持続的に展開していくために、こうちスタートアップパークの起業コンシェルジュに相談し、事業計画の整理や補助金申請の流れなどについて具体的なアドバイスをいただきました。学生という立場では見落としがちな手続きや、行政との連携方法を丁寧に教えてもらえたことが大きな支えとなりました。
こうした支援を受ける中で、行政と円滑に連携しながら活動を支える基盤を整えるためにも、法人としての信頼を築くことが重要だと判断し、合同会社を設立しました。

なぜ、子どもの居場所づくりを始めようと思ったのですか。
「子どもの居場所づくり」に取り組みたいと思うようになったきっかけは、私自身の幼少期の経験です。幼少期、経済的にも精神的にも余裕のない環境で育ったため、新しいことに触れる機会になかなか恵まれませんでした。しかし、高校生になってから挑戦する楽しさを知り、その経験が人生を大きく変えました。
子どもの成長には家庭環境などの周囲の影響が非常に大きく、行政の仕組みだけでは本当に助けを求めている子どもたちへの支援が不十分だと感じていました。だからこそ、地域で支え合える細やかな仕組みが必要だと思ったのです。過去の私のような環境にいる子どもを含む全ての子どもたちに平等に挑戦する機会や選択肢を増やしたいという強い想いが、活動の原動力となっています。
子どもの居場所といえば、まず頭に浮かんだのがこども食堂でした。実際に私も足を運び、活動に参加する中で強く感銘を受けました。しかし同時に、多くのこども食堂が月に数回しか開催できないなど、民間非営利組織(以下、NPO)としての限界も目の当たりにして、活動の拡大には社会の仕組みとして限界があると感じました。

その限界を乗り越えるために、事業化を決断されたのですね。
活動をボランティアで終わらせず、より多くの子どもたちに寄り添いながら継続的に広げていくためには、持続可能なビジネスモデルが必要だと考えました。
そんな中で、「ゼブラ企業」という概念を知ったことが、起業を決意する大きな後押しになりました。これは、社会的な目的をきちんと果たしながら、事業を継続させるために必要な収益も両立させるという、非常に合理的で実践的な企業モデルです。非営利(NPO)では難しかった「社会課題の解決」と「収益化」を両立できるこの構造こそが、私が目指すべきものだと確信しました。
私たちは現在も、地域のこども食堂と連携しながら、その活動回数が少ない部分を補完しつつ、今の子どもたちのニーズに沿った新しい居場所づくりに注力しています。
「駄菓子屋」が核となる理由— 子どものリアルな声を聞く場
事業の核として、なぜ「学習スペース」の隣に「駄菓子屋」を置くというユニークな組み合わせを選んだのでしょうか。
駄菓子屋があるからこそ、子どもたちは気軽に集まり、日々の悩みや、学校・家であったリアルな出来事を、気軽に話してくれます。多い時には20〜30人の子どもたちが遊びに来て、ピアノを弾いたり、工作をしたり、自由に過ごしています。
ただ勉強を教えるだけでなく、子どもたちのリアルな悩みを聞けることこそが大事だと感じています。駄菓子屋という場を通して、子どもたちと対等な立場で話せる空間を作ることが、彼らの「体験格差」を埋め、選択肢を増やすための第一歩だと思っています。

空き家活用と、心強い大家さんとの出会い
駄菓子屋オープンにあたり、地域との連携や、物件大家さんとの出会いに工夫はありましたか?
この場所は、「借主のやりたいことに共感した空き家の大家さんとつながるマッチングサービス)に私の「子どもの居場所づくりをしたい」という想いを掲載してもらったことで、ご自宅の活用方法を探されていた大家さんとマッチングしたことが始まりです。
大家さんご自身がこの活動に強い関心を持ち、私の考えに深く共感してくださったことが、心強かったです。自宅から少し遠い場所ではありましたが、この大家さんとの出会いと、いただいた共感が、事業を始める大きな決め手となりました。
特にオープン前は、地域に根付くために役場への挨拶はもちろん、ご近所さんへの挨拶回りを徹底しました。その際には、事業の企画書と駄菓子を持参し、大家さんも同行して事業への理解と信頼を得るために尽力してくれました。そのおかげで、地域の方々とも良い関係を築きながら事業を進められています。

起業までの道のりと乗り越えた壁
起業までに、どのような準備をされてきたのでしょうか。
本格的にビジネスへと視点を移したのは、2023年に学生団体を立ち上げた後、2024年に入ってからです。そこからは、とにかくビジネスモデルを固めることに約1年間集中しました。ビジネスコンテストへの参加を続ける中で、人脈形成のために多くの方に会いに行き、フィードバックをもらいました。
また、事業をシステムとして継続させることが何よりも重要だと考えたので、知識面の準備も徹底しました。法人登記は会計ソフトを活用してすべて自分で手続きを行い、事業の根幹となる知識として簿記やファイナンシャルプランナー、ITパスポートといった資格も取得しました。会社を立ち上げることと、持続可能なビジネスとして経営するためには、学び続けることが必要だと考えたからです。
学生起業として、苦労した点はありますか。
やはり、初期費用ですね。合同会社でも立ち上げに40万円ほどかかりました。学生団体の資金で賄えましたが、資金繰りは大変だと痛感しました。また、法人格を持つことでかえって仕事の依頼が減るのではないかという懸念もありました。ですが、実際には法人格を持ったことで、仕事の依頼は増え、受け取る金額も、提供する仕事の質も格段に上がったことから社会的な信用の重要性を強く実感しました。
今後の展望と未来の起業家へ送るメッセージ
今後、挑戦していきたいことや展望をお聞かせください。
社会福祉協議会とも連携し、この場所を多世代の居場所にしていきたいと考えています。また、現在は理科の実験や自己理解などのワークショップをベースにした教材を作成しており、ゆくゆくはこれを販売し、事業を広げていきたいです。
最も重要なのは、自分のプライドよりも結果にこだわること。私一人ではどうしようもない「体験格差」をなくし、子どもたちの選択肢を増やせるような社会をつくりたいです。そのために、駄菓子屋も教材事業も、どうすれば継続して残していけるかを考え続けていきたいと思います。

起業を考えている方に、ご自身の経験から伝えたいことは何でしょうか。
まずは、直感に従って行動してみるのが一番だと伝えたいです。特に、小さい規模から事業をスタートさせる場合、失敗は事業を磨くための貴重なデータになります。大きな組織での失敗と違い、少額の損失で済むことが多く、その経験はすぐに取り戻せる財産です。
ただし、社会課題に取り組むビジネスをするなら、情熱だけでは事業は続きません。個人的には、もっと経営や会計をしっかり勉強しておけばよかったと今になって痛感しています。だからこそ、事業を長く維持するための土台となる経営や会計などの知識は、起業準備と並行して徹底的に学んでおくことを強くおすすめします。
「やらぬ後悔より、やる後悔」という言葉を信じ、まずは一歩踏み出してください。

合同会社きみのたねこうぼう
住所:高知県土佐市高岡町乙191−1
instagram:@kimi_tane_kochi
文責/楠瀬まどか