〜「くらしHAUS」 小谷 優美さん〜

「ただいま」と言いたくなる宿をめざして

 

 高知県の自然豊かな黒潮町に、ひっそりと佇む一軒の宿「くらしHAUS(ハウス)」。宿のオーナーである小谷 優美さんに、黒潮町へ移住したきっかけや起業までの道のり、どんな宿を目指しているのかお話を伺いました。

 

砂浜美術館が教えてくれた、暮らしの価値

なぜ、黒潮町に移住されたのですか?

きっかけは、この町の「砂浜美術館」に就職したことです。香川で教員をしていた頃に、「私たちの町には美術館がありません。美しい砂浜が美術館です。」というコンセプト文に惹かれたんです。特別な建物がなくても、身近な砂浜を「美術館」と捉える考え方に心から感銘を受け、砂浜美術館に関わりたいと強く思いました。

 

 砂浜美術館のどんなところに惹かれたのですか?

「砂浜美術館」では、Tシャツアート展など企画展の風景以外にも、飾らないありのままの風景が、砂浜に打ち上げられた漂流物やそこに暮らす人々など、すべてが「作品」なんです。それは、日常の何気ないものに価値を見出し、それを面白く、楽しく使っていこうという考え方で、「今ここにある暮らしを楽しむ」ことに繋がっていると感じました。この哲学は、私がもともと好きだった感覚にピッタリとはまりました。

 

この哲学をもって世界を見渡すと、身近な自然や人との出会いなど、日常の中にたくさんの楽しみがあることに気づかされます。そして、砂浜美術館のあるこの黒潮町には、自分自身で楽しみ方を見つけていける人も多く、飽きることがありません。この宿は、そんな感覚や哲学を伝えられる場にしたいんです。

 

 

ゲストの声から生まれた「見切り発車」の挑戦

宿を始められたきっかけについて教えていただけますか?

この町に一定期間滞在しサテライトオフィスを開きたいという企業の声があり、その条件に応えられる宿がなく断ろうとしていることを知ったのが始まりでした。多くの社員さんとの交流が生まれる機会を失うのはもったいないと思いました。また、大好きな海の見える高台の自宅の横にちょうど空き家があったことから、『この場所を活かしながらこの要望に応えたい』と、宿を始めようと決意しました。

 

起業の準備はどのように進められましたか?

正直当初は、事業の立ち上げ方や経営のノウハウが全くなかったこともあり、不安な部分も大きかったのです。 そんな中、『高知県地域課題解決起業支援事業費補助金』の申請を通して「こうちスタートアップパーク」の存在を知り、「起業アイデアブラッシュアップコース」に参加しました。このセミナーでは、自分一人では網羅的に知ることが難しい起業の流れを学べたことや、同じように頑張る仲間と課題を共有できことが大きな収穫でした。特に、事業の収益性について、厳しい現実も含めて丁寧にアドバイスをいただけたのは、とても助かりました。同時に起業相談も利用し、資金計画等色々とアドバイスをもらいながら、補助金の申請手続きを進めました。

 

起業の準備期間は6月から8月末までのわずか3ヶ月間だったためとても大変でしたが、「開始日が決まっているから、なんとかやり遂げる」という気持ちで、見切り発車でやり切った感じです(笑)

 

 

応援が力になった宿づくり

宿の立ち上げで、特に苦労されたことは何ですか?

何よりも苦労したのは、働きながら副業として事業を立ち上げたことです。平日は本業があるので、準備は基本的に土日に行いました。宿の営業に必要な申請手続きも、昼休みなど限られた時間の中で進める必要があり、スケジュール調整が本当に難しかったです。

 

また、補助金(高知県地域課題解決起業支援事業費補助金)の申請、活用、報告も一苦労でしたね。特に、必要な経費については、備品など事前に綿密なリストアップをして見積もりをとり、確実に購入することが必要だと学びました。しかし大変さも含めて、全てが貴重な経験だったと思っています。事業の長期的な継続を考える上で、必要不可欠な資金計画のトレーニングにもなりました。

 

 

その大変さをどう乗り越えられたのでしょうか?

原動力になったのは、この宿の完成を待っていてくれるお客さんがいるという気持ちでした。「やります」言ったからには後には引けないと、責任感も力になりました。また、私一人で動いているという感覚はなかったですね。役場と付き合いのある企業だったこともあり、役場職員も応援してくれました。また大家さんも「家を活用してくれて嬉しい」と喜んでくれたんです。そうした声に励まされて、個人事業でありながらも、地域のためにもなると大きな意義を感じることができました。まさに「見切り発車」で始めたのですが、多くの応援のおかげでなんとかやり遂げることができた、という感じです。

 

 

「空想をカタチに」する、これからの挑戦

今後の展望について教えてください。

宿を通じて、訪れる人に「黒潮町での暮らしを楽しむ」ということを体験してもらいたいです。今も理事で関わる砂浜美術館のことや、さまざまな地域活動で得た知恵や経験を、宿に散りばめたいと思っています。そうすることで、この宿を通して町の魅力も発信していきたいです。

 

そして、もう一つ挑戦したいのが、「空想をカタチにする伴走者としての仕事」です。この場所を拠点に、訪れた人や地域の方々のアイデアや夢の実現を手伝っていきたいんです。一つのことがカタチになることで、自分の力を信じる自信がつきもっとやってみようと思えるような、想像力と創造力を育める場所をつくっていけたらと考えています。

 

最後に、起業を目指す方へのメッセージをお願いします。

起業を考えるとき、すべてを完璧にしてからと思いがちですが、私はそれほど難しく考えなくてもいいと思うんです。まずは『こうなりたい!』というゴールを見据えることが大切です。石橋を叩きすぎないことも大事。まずは一歩踏み出してみる。そうすれば、次に進むべき道も自然と見えてきます。もし間違っていたとしても、その時はまた、やり直せばいいんです。そう考えると、少し肩の力が抜けて、最初の一歩を踏み出しやすくなるんじゃないかなと思います。とにかく、行動してみましょう。トライ&エラーの気持ちで!

 

 

一棟貸しの宿 くらしHAUS
・住所:高知県黒潮町浮鞭297−1
・Instagram:@kurashi_haus


文責/楠瀬まどか